2021/12/30

変形労働時間制とは

変形労働時間制とは何でしょうか。よくこんな質問を見受けます。簡単に説明してみましょう。


人を使って働かせるには、法定労働時間を超えて働かせることができません。法定労働時間とは、日8時間、週40時間と定められています。これを超えて働かせると、その使用者は罰されます。これでは、病院の入院病棟や、老人ホームの福祉施設など終日夜勤させたい場合や、長距離トラックの運転など、さまざまな業態で支障がでてきます。人員確保して8時間3交替にするか、36協定を結んで割増賃金支払うしかありません。だからといって交代要員をトラックになにもさせずに同乗させるのも不経済です。そこで一定期間平均したら週40時間以下に収まる勤務体制を組むなら、労働者を使用してよいとする例外制度を設けました。それが変形労働時間制といわれているものです。


あらかじめ1カ月(あるいは1年)以内の一定期間の中で、労働日と労働時間を定めておきます。さだめた所定労働時間の累計時間をA、その一定期間(暦日数)をBとします。Bを7で割れば、その期間は何週分にあたるかの値Cになります。

AをCで割れば週あたりの労働時間がでます。その値が40時間以下なら、変形労働時間制として法定労働時間の例外として許容する制度です。

計算式:A÷(B÷7)≦40

ここでは何種類かある変形労働時間制のうち、一か月単位の変形労働時間制で説明します。この制度は大きく分けて、ひと月のうち繁閑が予測できるタイプと、夜勤など長時間勤務を組むタイプでの利用が見込まれています。

前者で説明すると、たとえば前月の締めをする経理とか給与計算事務のように、月のどの期間に業務が集中するかわかっているタイプに向いています。すなわち月の第5営業日までは、毎日10時間労働、その後は仕事がおちつき月末までの各労働日は7時間労働と、あらかじめ就業規則に定めておくことで、一か月単位の変形労働時間制を導入できます。変形労働時間制でないと10時間労働の日は2時間時間外労働ですが、変形労働時間制とすることで、変形期間を通じ平均して40時間以下に収め、その時間どおりに働かせる分には、時間外労働の発生はありません。

(表1)月の第5営業日までは、所定10時間、それ以降は所定7時間。

  12345
  10:0010:0010:0010:00 
6789101112
 10:007:007:007:007:00 
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 7:007:007:007:007:00 
20212223242526
 7:007:007:007:007:00 
2728293031  
 7:007:007:007:00  

月間所定労働時間 10:00 × 5日+7:00 × 18日 = 176時間 

週平均 176時間÷(31日÷7日)=約39時間44分

後者のタイプですと、超時間夜勤専門で1勤務2日にまたがる16時間労働、月10勤務までと就業規則に規定し、実際の勤務日を、各月前に勤務予定表で提示する形をとることもできます。

(表2)日をまたぐ所定16時間勤務

  12345
  16:00  16:00 
6789101112
 16:00  16:00  
13141516171819
16:00  16:00  16:00
20212223242526
  16:00  16:00 
27282930   
 16:00     

月間所定労働時間 16:00 × 10日 = 160時間 

週平均 160時間÷(30日÷7日)=37時間20分

メリットデメリットはそれぞれにあります。使用者には予定通り働かせる場合は余分な時間外割増賃金を支払わずに済む反面、繁閑の予測がつく事業でないと思い通りには運用できない、という側面があります。労働者から見れば、決められた時間通りに働く分には時間外割増賃金をあてにできません。その代わり、長時間連続なら休日が増える、逆に休日が減る代わりに早く仕事があがる、あるいは労働時間の長短というメリハリの利いた就業、トレードオフながら労働時間減、休日数増のどちらかを享受できます。


一か月単位の変形労働時間制のよく似た制度で、1年単位の変形労働時間制があります。こちらは制約が多いため、1勤務16時間労働といった長時間ものには利用できませんが、前者のタイプ、変形期間の1年、3カ月周期で繁閑の見通しがつく業務に利用されます。


お勤め先が、変形労働時間制かどうかはどのように見極めたらいいのでしょうか。

まず、就業規則かその規則に基づいて立てた勤務予定表でもって、1か月とか1年といった一定期間、いつが労働日か、労働日なら何時間働くかが、あらかじめ特定されていることが大事です。その勤務予定表どおり働く分には、時間外労働は生じません。ただ深夜に対しては深夜割増賃金がつきます。


(2021年12月30日投稿、2022年3月19日編集)




関連記事(変形労働時間制)

1カ月単位と1年単位の変形労働時間制の異同 

1年単位の変形労働時間制について 

変形労働における時間外労働の把握2 

変形労働時間制の時間外労働の把握 

1カ月単位の変形労働時間制における労使協定の意義 

変形労働時間制と休日の関係 

表の表示が崩れる場合は、横長画面か、ウェブバージョンでご覧ください。

2021/12/25

労使協定の協定項目

労基法の定める労使協定には、労基署に届け出義務があるものとないものがあり、一覧にしてまとめました。届け出義務のあるものは、協定届の様式があるものの、協定書として流用できる旨があり、その場合記載事項にない締結項目があるようなので、整理してみました。マークしたところが協定届け出様式に記載欄がない項目ですので、届け出様式をもって協定書とする場合は、枠外か別紙に付記せねばならないでしょう。これに反して、法定の協定項目以外の、労使に権利義務を課す内容を盛り込み、就業規則には反映させないなら、その協定書自体、就業規則の一部を構成しますので、届け出義務のある事業所は所定の手続きをせねばなりません。なお、協定締結は企業単位でなく、事業所ごとに締結を要しますので、内容が全社共通でも事業所ごとに過半数組織労働組合、なければ労働者過半数代表を選出しての締結となり、事業所管轄の労基署への届け出となります。


根拠条項
内容
協定事項
    • 施行規則
届け出義務(ありの場合、様式)
コメント

18(2)
強制貯金
    • 預金者の範囲(以下則5条の2による)
    • 1人当たりの預金限度額
    • 利率及び利子の計算方法
    • 受払い手続
    • 保全の方法
あり、様式一号

24(1)ただし書
賃金の一部控除(法定控除以外)
(なし)
(なし)
規定例は、厚労省サイト、またはネット検索ください。口座振込の例は通達によるものです。

32-2(1)
一カ月単位の変形労働時間制
  • 1箇月以内の期間を平均し一週間あたりの法定労働時間を超えない定め
    • 起算日(就業規則またはこれに変わる書面でも可)則12条の2
    • 有効期間(労働協約による場合を除く)則12条の2の2第1項
あり、様式第三号の二
協定締結は必須ではない。就業規則またはこれに変わる書面(就業規則制定義務のない事業所に限る)でも可。協定締結した場合でも、就業規則に変形での就業を規定していないなら就業規則変更のうえ、協定ともども届け出義務がある。

32-3(1)
フレックスタイム制
  • 対象労働者の範囲
  • 清算期間
  • 清算期間における総労働時間
  • 施行規則12条の3第1項に定めるところの
    • 標準となる一日の労働時間
    • コアタイムの開始終了時刻(任意)
    • フレキシブルタイムの開始終了時刻(任意)
    • 有効期間(清算期間1カ月を超える場合で労働協約による場合を除く)
    • 起算日(就業規則またはこれに変わる書面でも可)則12条の2
あり(清算期間1カ月を超える場合)、様式第三号の三
清算期間は3カ月以内。

32-3(3)
フレックスタイム制を完全週休二日制で運用する場合の例外適用
労働時間の限度について、当該清算期間における所定労働日数を日の法定労働時間に乗じて得た時間とする定め
(なし)
同条のフレックスタイム協定に盛り込むことも可。通達運用だった法定総枠の例外を、今回の働き改革法にて法定化。法定総枠<例外の月に、この協定しておけば例外時間超えたところから時間外労働。なお例外<法定総枠の月は、例外時間超えたところから時間外労働。

32-4(1)
一年単位の変形労働時間制
  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間(一箇月を超え一年以内の期間に限る)
  • 特定期間(繁忙期間、任意)
  • 対象期間における労働日と労働日ごとの労働時間※
  • 施行規則12条の4第1項に定めるところの
    • 有効期間(労働協約による場合を除く)
    • 起算日(就業規則またはこれに変わる書面でも可)則12条の2
あり、様式第四号
※対象期間をつうじての労働日、労働時間の定めにかえて、例外あり

32-5(1)
一週間単位の非定型的変形労働時間制
(なし)
あり、様式第五号
規定例は、厚労省サイト、またはネット検索ください。

34(2)ただし書
一斉休憩の例外
  • 一斉に休憩を与えない労働者の範囲
  • 休憩の与え方
なし

36(1)
時間外、休日労働
  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間(1年限定)
  • 対象ケース
  • 限度時間(日、月、年)、休日労働日数
  • 施行規則17条第1項に定めるところの
    • 有効期間(労働協約による場合を除く)
    • 1年の起算日
    • 月100時間未満、2カ月ないし6カ月平均80時間以下を満たすこと
    • 特別条項を適用するケース(以下、任意)
    • 健康福祉確保措置
    • 割増賃金率
    • 特別条項適用手続き
あり(届け出が発効要件)様式第九号、第九号の2ほか
他の労使協定届け出は刑罰付きの事務手続きであり、協定締結をもって発効している。

37(3)
代替休暇(割増賃金部分支払い免除)
  • 代替休暇の時間数算定方法
  • 休暇の(一日、半日といった)単位、他の有給休暇との組み合わせの可否
  • 休暇取得可能期間(最長二カ月)
なし
月時間外60時間超のプラス25%部分の免除。150%の50部分、もしくは全額まるまるではない。

38-2(2)
事業場外みなし労働の必要時間の定め
  • 前項ただし書の通常所定労働時間を超えて労働する場合の当該業務の遂行に通常必要とされる時間
  • 施行規則24条の2第2項に定めるところの
    • 有効期間
あり、様式第十二号(三六協定に付記可)
そもそも事業場外のみなし労働時間策定そのものが労使協定の対象でない。所定を超える必要時間数を協定するかは任意、協定した時間が日の法定労働時間を超える場合に届け出義務となる。

38-3(1)
専門型裁量労働時間制
  • 労働者の裁量に委ねる対象業務
  • 算定する労働時間(いわゆる1日のみなし労働時間)
  • 対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと
  • 使用者が講ずる健康福祉確保措置
  • 使用者が講ずる苦情処理措置
  • 施行規則24条の2の2第3項に定めるところの
    • 対象労働者の同意取り付け、および不同意労働者への不利益取り扱いしないこと
    • 同意労働者の撤回手続き
    • 有効期間の定め(労働協約を除く)
    • 健康福祉確保措置、苦情処理措置、同意及び撤回の記録保存期間を前項有効期間終了後5年(当分3年)とすること
あり、様式第十三号
対象業務は施行規則に限定列挙。次条の企画型は労使協定でなく、労使委員会結成決議による

39(4)
時間単位年次有給休暇
  • 対象労働者
  • 対象年休日数(5日以内)
  • 施行規則24条の4に定めるところの
    • 一日あたりの時間数(日所定労働時間を下回らない)
    • 1時間以外で付与数場合の時間数(日所定労働時間未満)
なし
計画年休、使用者の時季指定義務の対象でない。

39(6)
計画年休
有給休暇を与える時季に関する定め
なし
規定例は、厚労省サイト、外部サイトを参照ください。労基法の定める他の労使協定とことなり、免罰効力のほか協定した日程に規範性(労働者に権利義務)を生じさせる。

39(9)ただし書
休暇日賃金の選択
休暇日賃金を健保標準報酬月額の30分の1による定め
なし

【お断り】正確性は法令記載の条項が優先するもとし、本ブログは理解の一助としてください。

(2021年12月25日投稿、2024年5月13日編集)

関連項目

労働者過半数代表 

就業規則制定(変更)届 

労働協約と労使協定 

労使協定 

2021/12/11

労基法の有期雇用契約

労基法には、労働者保護を名目に有期雇用契約に制限を設けています。

長期契約制限

ひとつは3年を超える長期有期契約を禁止しています(14条)。やむを得ない事情がないかぎり退職できず長期拘束をともなうからです。ただしその例外として、

  • 事業の完了が見込まれる有期事業にて雇用する契約
  • 専門知識、技術経験を活かしてもらう厚労大臣基準の資格をもつ労働者との契約(後述)
  • 60歳以上の労働者との契約

です。前1者は必要とする期間、後2者は最長5年となります。前者はダム工事期間中等、プロジェクトの終結がはっきりしていることが条件で、必要とする例えば、7年、10年という長期契約を結ぶことができます。

さらに有期雇用に関する法的対処を講ずるまでの経過措置として、上にあげた3つの例外以外の雇用契約で、1年を超える期間の雇用契約は、やむを得ない事情(民628条)がなくても、1年を経過した日以降、いつでも即日退職する権利を労働者に付与しました(137条)。これにより1年を超える有期契約をみかけなくなったゆえんです。それにしても平成15年改正法に盛り込まれて今にいたるまで、有期短時間雇用について法的整備がなされてきたものの、この面の法的措置について合意に達せないのは残念なものです。

有期5年を結べる専門的知識を有する例(限定列挙)

  • 博士号の学位を有し、その専門知識を活かせる業務
  • 国家資格を有し、その専門知識を活かせる業務(公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、社会保険労務士、不動産鑑定士、技術士、弁理士)
  • システムアナリスト、アクチュアリー
  • 特許発明者、登録意匠創出者、登録品種育成者
  • 人文系をのぞき所定の学科を修め従事させる業務の所定年数経験のある者(年収1075万円以上)
  • すぐれた知識技術経験を持つ者として国等により認定を受けた者

更新基準の明示

雇入れ時に労働条件を明記した書面でもって労働者になる人に交付せねばなりません。更新するときも同様です。別ページにも書きましたが、更新後交付でなく、更新をきめたならその場で交付義務が発生します。明記する労働条件は法令で定められていますが、有期雇用にあっては契約期間だけでなく、次回更新の有無、更新有りなら更新する判断基準の条件を具体的に記載せねばなりません。これは平成25年4月施行規則改正により、大臣告示の紛争防止基準(いわゆる努力義務)から法定義務となりました。

更新の有無更新判断基準の例
  • 更新しない
  • 自動的に更新する
  • 更新する場合がある
  • 契約期間満了時の業務量による
  • 労働者の勤務成績、態度による
  • 労働者の能力による
  • 会社の経営状況による
  • 従事している業務の進捗状況による

有期雇用にあっては、ちょっとしたことでいさかいがたえないので、個別労使紛争への発展することへの抑止を目的に、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」が設けられています(労働基準法14条2項を根拠として大臣告示。「紛争防止基準」と呼ばせてもらってます)。ここでいう雇止めとは契約にもうけられていた期間終期において、新しい契約を結ばない更新しないことを言い、期間途中で契約解除する解雇とは区別します。労働契約法で、雇止めが無期雇用者の解雇と同視される場合についての扱いを述べていますが、あくまでも雇止めです。

雇止め予告

更新する場合がある有期雇用契約において、次のひとつにでもあてはまる場合は、雇止め30日前予告を勧告しています。

 該当するケース該当しない例
3回以上更新している場合2回更新して、3回目の更新を前にする雇止め(次項にあたる場合をのぞく)
契約更新して継続通算1年を超える場合契約期間満了時の雇用期間がちょうど通算1年になる雇止め(前項にあたる場合をのぞく)
1年を超える有期雇用契約の場合契約当初から更新しない契約
 この終期をもって雇止めする場合の30日前通告対象契約
 以後同様
契約期間
1年1年未満1年超
6カ月8カ月2カ月
タイプB タイプB タイプC
 
タイプA
タイプB 
  
 
     
 
 
  
   
自動更新

有期の労働契約にあって自動更新とは、どういう契約を結ぶのか疑問でしたが、次の例のようになります。

第 条 本契約の終期1か月以上前に一方が他方に書面にて期間満期をもって契約の終了を通知することがなければ、本契約終期の翌日において同一条件で更新するものとし、以後同様とする。

あらたな疑問です。自動更新で契約をあたらしく起こすことはありませんが、では更新のたび書面交付義務は消えるのでしょうか。労働条件通知書を都度渡しておく、という安全パイで。令和6年4月施行の労働条件通知書の記載項目に対応するには、毎回ではありませんが、無期転換権発生対応等応じなければならなくなりました。また、助成金対応ですとそれに応じた自動更新条項にしておく必要がありますので、官庁に事前問い合わせください。

追補

令和6年4月、雇い入れ通知書および紛争防止基準等に、あらたな項目が増える予定です。( ⇒ 下記関連記事参照)


(2021年12月11日投稿、2024年3月10日編集)

関連記事

労働条件通知書(有期雇用向け) 

2022.12労政審議会報告 

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