2021/05/05

給与明細書の仕組み

毎月の支払われる賃金給与が、時給、日給、月給のいずれであれ、給与明細書にして労働者に交付しないといけません(所得税法)。また社会保険料、雇用保険料を源泉したときも、計算書にして交付となります。それを1枚の給与明細書にして労働者に交付、事業主控えを賃金台帳にしている事業者もいます。給与明細書の仕組みはだいたい共通ですので計算流れを表にしてみたいと思います。

基本給(a)
諸手当(b)
時間外割増手当(c)
休日割増手当(d)
通勤交通費(e)
総支給額(F=a~eの合計)
  
雇用保険料(g:F×保険料率)
健康保険料(h:Fに対する標準報酬月額×保険料率)
厚生年金保険料(i:同上)
社会保険料計(J:g~iの合計)
源泉所得税(k:税額表(F-J-eの非課税分))
各種控除(l) 住民税(特別徴収)はこのグループに
控除合計(M=J+k+l)
  
差引支給額N=F-M

いわゆる手取りというのがNにあたります。ときどき相談板で私の賃金引かれすぎじゃないでしょうか、とNの手取り額で相談されても回答者はこまります。Fの総支給額もあわせて明示ください。ごくたまに手取りいくらにするには、額面いくら必要でしょうか、という質問をみかけます。算出不可ではありませんが、社保の適用ずれ、住民税納付等で変動すること、そして何よりも着地点複数値生じることもあります。

最初に述べましたが給与明細の法的根拠は、労基法にではなく、

  • 所得税法(所得税法施行規則100条)
  • 健康保険料(法167条)
  • 厚生年金保険料(法84条)
  • 雇用保険料(徴収法32条)

です。所得税法以外は、それぞれの源泉する額の計算書としての交付義務として述べています。計算書を別途交付するよりは給与明細書に盛り込んで兼ねさせてます。労基法は賃金台帳として、支払い後遅滞なく作成とありますので、それ以外の要素としての労働時間、時間外労働時間等記載事項を給与明細書に併記して、別途台帳作成する手間を省いているといえるでしょう。

(2021年5月5日投稿、2022年9月11日編集)

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2021/05/03

労働者負担の社会保険料を事業主が負担した場合

雇用保険、健保・厚生年金保険料の本人負担を控除しないで会社負担とする場合、その保険料は賃金扱いとなります。保険料率(本人負担)は次の通りとして、保険料算出を解説してみます。

項目保険料率(千分の)
雇用保険料6
健康保険料(介護保険料こみ)58.2
厚生年金保険料91.5

採用した人の給与予定額、諸手当通勤交通費込みで30万円(A)ちょうどとしましょう。

項目保険料額(円)
雇用保険料1,800
標準報酬月額300千円
 健康保険料(介護保険料こみ)17,460
厚生年金保険料27,450
合計(B)46,710

この人のみなし賃金は346,710円(C=A+B)となり、この額に保険料率を乗じ(雇用保険・労災保険)て労働保険確定申告、社会保険は標準報酬月額 340千円 として資格取得届け出することになります。

源泉所得税が本人負担なら、C(非課税通勤交通費を除く)に対して税額を求めることになります。これも事業主負担とするのであれば、A(同)に対する求めた税額をBに足しこみ、あらためて求めたC'(同)の額に対する保険料、税額を納付することになります。

詳しくは、年金事務所(社会保険)、労働基準監督署(労働保険)、税務署(源泉所得税)にお問い合わせください。


雇用保険に関する業務取扱要領

50504(4) 特別の取扱をするもの

ロ 社会保険料、所得税等の労働者負担分を事業主が負担したもの

事業主が、社会保険料、所得税等の労働者負担分を労働協約等の定めによって義務付けられて負担した場合には、その負担額は賃金と解される。

労働保険徴収法通達

保険料の算定が複雑になるときは、事業主が負担した社会保険料の額が保険料算定の額としてよい。(昭51.3.31 労徴発12号)

所得税法基本通達36-31の8

使用者が、役員又は使用人が負担すべき次に掲げるような保険料又は掛金を負担する場合には、その負担する金額は、当該役員又は使用人に対する給与等に該当することに留意する。

(2) 法第74条第2項《社会保険料控除》に規定する社会保険料

(2021年5月3日投稿、2024年4月20日編集)

2021/05/01

1年単位の変形労働時間制について

変形労働時間制のひとつ、1年単位は制約の多い労働時間制度の例外規定です。制約が多い割には、中小零細企業に使用例がおおく、もっぱら週6日制を多用する目的と思われます。すなわち盆暮れ休みさせた分を、通期の土曜出勤にあてるという構図です。締結した協定書写しは労基署に届出書に添付。また就業規則にも変形労働時間制をとる場合の始業終業時刻、休憩時間帯、休日の定めを規定しおく必要があります。それでは、協定事項等を見ていきましょう。

協定事項
  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間
  • 特定期間(定めなくても可、対象期間のほとんどとするのは不可)
  • 労働日とその各日の労働時間
  • 有効期間(労働協約による場合を除く)

1年単位、元は3カ月単位の変形労働時間制でした。平成5年の労基法改正で、3カ月から1年に伸長し、変形期間3カ月以内であれば一部制約フリーの部分が生じたわけです。その違いを見ていきましょう。

項目変形期間3カ月以内3カ月超える変形期間
対象労働者18歳未満は不可(日8時間週48時間以下であれば可)妊産婦の請求があれば週40時間、日8時間以下に限る
対象期間1か月を超え1年以内
労働日と労働時間の特定全期間の労働日と労働時間を決定しておく ただし、1カ月以上の期間に区分して・最初の期間における労働日、労働日ごとの労働時間・次の期間以降の各期間の労働日数、各期間の総労働時間を協定しておくことで、次期以降の各期間初日30日前に各期間の労働日、各労働日の労働時間を労働者代表の同意をえる例外運用が可能。
総労働日数の限度(制限なし)年280日(1年より短い対象期間は、按分比例した日数) 旧協定での1日または1週間の労働時間よりも、新協定の労働時間を長く定め、かつ日9時間または週48時間を超えることとした場合、280日または旧協定の総労働日数から1日減じた日数のいずれか少ない日数としなければならない。
日、週の労働時間の限度日10時間、週52時間が限度 隔日タクシー運転業務は1日16時間まで左のほか※
・週48時超える所定労働時間の設定は、連続3週以内
・対象期間の初日から3カ月区切った各期間において、週48時間を超える所定労働時間を設けた週の初日は3以内
(ここでいう週は、対象期間の初日の曜日を起算日とする7日間を指す)
指定降雪地域の建設業の屋外労働者(およびその現場に出入りする貨物自動車運転業務)は非適用
対象期間の連続労働日数最長6日まで。協定に特定期間*を設ければ1週間に1休日確保で可。
36協定時間外労働の協定上限月45時間、年360時間月42時間、年320時間

・特定期間*は計測可能とするため、週を単位に期間指定することが望ましいと思われます。

対象期間の途中で出入りする労働者には、日、週で時間外労働としなかった時間が、在籍期間からもとまる法定総枠超えしている場合は、割増賃金つけて清算する義務があります(労基法32条の4の2)。これは同一事業場の、ことなるカレンダーを使用している部署異動にも適用されます。

48時間超える週の制限について

対象期間の初日の曜日を週の起算曜日として区切り、

1)48時間超えの週が連続3週以内、

2)対象期間の初日から3カ月ごとに区切り、48時間超える週の初日が3以下

2がわかりづらいですが、要するに3カ月跨ぎの週は、その週の初日が属する3カ月期間にカウントするという意味です。下表は1月1日開始1年単位の変形労働時間制です。開始日の1/1と同曜日で週を区切り、48時間超えの週をピックアップし、3カ月ごとに48時間こえる週の初日が3回以下とする制限があります。下表によれば、1月~3月の3カ月の48時間超えの週が3週連続し、かつほかに48時間超えの週が同3カ月内にありませんので、適合。4月~6月の3カ月期間内に6/25の週が48時間超え週のカウントに入りますので、不適合となります。

40時間48h52h 
1/1~    
1/8~   1回目
1/15~   2回目 
1/22~   3回目
1/29~    
    
3/26~    
4/2~   1回目
    
5/14~   2回目 
5/21~   3回目
    
6/25~   4回目(不可)
7/2~    
     

(2021年5月1日投稿 2023年10月30日投稿)

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