2023/10/13

定時決定、随時改定の1年平均

毎年4月から6月にかけて受け取る給料が残業等で他の月より多い労働者にとって、年収では同じ層の労働者に比べ割高な社会保険料を通年収めるといった不満がありました。

そこで、平成23年ごろの定時決定から、年平均をベースに保険料設定できる制度が始まりました。一方定時にくらべ複雑な随時改定は、遅れて平成30年10月に年平均が始まりました。

両制度ともたまたま対象期間と業務多忙がかち合ったというだけではだめで、毎年同時期の繁忙期にあたる、といった恒常性が必要です。また労働者が希望するたけでもだめで、使用者がその必要を認める、といった双方性が条件です。

両者は1年かけて平均をとるのですが、対象となる賃金が微妙にことなります。それをイメージで図示してみました。

定時決定の1年平均

単純に3か月平均とのこり9か月を加えた1年平均を求め比較し、諸条件に合致しているとの申請をし、年平均の標準報酬月額として9月からの保険料適用します。

 固定的部分非固定的部分
前年7月   
8月   
9月   
10月   
11月   
12月   
本年1月   
2月   
3月   
4月   
5月    
6月    

次に説明する随時と異なり、3か月平均と1年平均との差が2等級以上ある場合が該当します。

随時改定の1年平均

定時とは異なり、1年平均は非固定的賃金を対象とし年間の月平均を求め、固定的賃金は変動月以後3か月のみを対象とし月平均をもとめ合算比較します。諸条件に合致しているとの申請をし、年平均の標準報酬月額として第4月からの保険料適用します。

 固定的部分非固定的部分
-9月    
-8月    
-7月    
-6月(計算対象外)   
-5月    
-4月    
-3月    
-2月    
-1月    
変動月   
第2月    
第3月    

月変における主要な要件を列挙してみます。

  1. 現在の標準報酬月額
  2. 従前の3か月平均
  3. 1年平均
  • AB間に2等級差以上あること(これがないと従前の月変にあたりません)
  • BC間に2等級差以上あること(1等級差以下ならさわぐことでもないのでしょうか)
  • AC間に1等級差以上あること(1等級でも抑えたいということです)

(2023年10月13日投稿)

関連記事

月変・定時カレンダー 

随時改定の判断基準 

新社会人のための給与制度のあらまし 

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2023/10/01

メリット制の概観

ある一定規模以上の事業が払う労災保険料については、自動車任意保険に似た保険料率アップダウンする制度があります。メリット制と言いますが、自動車保険は事故に対し等級、割引率がさがり、無事故を続ければ年々回復していくしくみ(多少こみいった部分あり)ですが、労災保険は「保険給付にかかった費用」と「支払保険料」の比で直接割引率を設定する方式になります。

ここでは、主に継続事業(事務所、工場)の説明を中心にしています。

対象事業
  • 100人以上の労働者を使用する事業
  • 20人以上100人未満である一定料率以上の事業
対象期間
第1年度第2年度第3年度第4年度第5年度
     
← 収支算定期間 → メリット率適用

第1年度からの3年間に納めた保険料額を分母、同期間の保険給付した額を分子にして収支率を算出。求めた収支率に応じた増減率(-40%~+40%)を、第5年度の保険料に乗じます。たとえば今年度に起こした業務上災害事故(上表では第3年度)による影響は、はやくて2年先(同第5年度)の保険料に現れ、以後3年間(同5~7年度)にわたり影響します。第6年度保険料は、第2年度からの3年間の収支率を元に算定します。

算定対象
メリット収支率 = 3年度の保険給付の額 × 100
3年度の納付保険料

分母の納付保険料には、業種に応じ調整率(林業0.51、建設港湾0.63、その他0.67)がかかり、分子の給付額には、特別支給金を含み、また障害遺族の補償年金は実際の支払い額でなく等級に応じた一時金に換算します。また分母分子には通勤災害にかかる保険料、給付は除外します。

増減率

求まった収支率を増減率に換算します。換算率は-40%から+40%の範囲で5%刻みです。収支率75%以下ならマイナスに、同85%超ならプラスに作用します。

メリット収支率メリット増減率のイメージ
~10% -40%
 
  
  
  
  
  
  
75%~85% ±0%
  
  
  
  
  
  
  
 150%~ +40%
保険料率

換算した増減率を、第5年度の保険料に乗じますが、全体に乗じるのでなく、通勤災害等に対する料率(1000分の0.6)を省いた率に乗じたのち、省いた通勤災害料率等を足しこみます。

メリット料率 = (労災保険料率-0.6) × 100+メリット増減率(%)  + 0.6
100

実業を行わないおおかたの事務所に適用される「94その他の各種事業」3/1000で計算例を示してみます。 3年間無災害の増減率(-40%)場合、

メリット料率 = ( 3 - 0.6) × 100-40 + 0.6 = 2.04
100

災害多発の増減率(+40%)場合、

メリット料率 = ( 3 - 0.6) × 100+40 + 0.6 = 3.96
100

無災害の場合、保険料率は約2/3に低減(3 ⇒ 2.04)される反面、災害多発事業所の場合、同4/3倍(3 ⇒ 3.96)となっており、さらに保険料率が高い事業ほど、増減率の効果が効いてきます。実際の納付時には、保険料確定申告書に「メリット」と表示されて、増減後の率にしたがって保険料額を納めることになります。


参考サイト

厚生労働省 労災保険のメリット制について(概要)

厚生労働省 労災保険のメリット制について(PDF)

参考記事

労災勘違いあるある 

労災保険給付手続きは誰がするのか 

労災保険未加入に罰則がない 

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