2023/09/15

年休取得、新規付与数からの減数

ときどき、年次有給休暇繰越数があるのに新規付与分から減数させられるという苦情、質問をたまに見かけます。ところがこの方式は民法にて規定されており、こちらの方がむしろ法にかなっているのです。すなわち当事者間で取り決め(意思表示)がなければ、年次有給休暇の減数は、債務者ここでは会社側有利な方から減数して扱ってよいのが、民法の定めです(民法488条4項2号)。

(同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当)

第488条 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第1項に規定する場合を除く。)は、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。

2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。

3 前2項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。

4 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第一項又は第二項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。

一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。

二 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。

三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。

四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

比較的ながい条文の引用ですが、構造は明確です。古い繰り越し分からでなく新規付与から減数する方が、債務者の会社は有利となります。どれだけ有利(労働者にとって不利)かは、こちらの繰越展開図をごらんください。

有利な扱いを就業規則に明確にしてもしなくても、民法に規定したとおり取り扱ってよいのです。そういった取り扱いをして労働者とのトラブルをさけていきたのでしたら、就業規則に明確にしておくことが望ましいです(同条1項、3項)。

ただし、これまでしてきた減数を「古い繰越分」から「新規付与」へ変更することは、就業規則にあらたに規定することも含め労働者に対し不利益変更ですので、変更するに合理的理由、労働者への説明等、労働契約法にそった手続きを経ないことには、簡単には有効とはなりません。また学説には、この民法の規定は、年次有給休暇にあてはまらない、とする立場もあります。


(2023年9月15日投稿)過去記事を分離再編集

参考記事

年次有給休暇制度の改正経緯 

年次有給休暇の取得率計算 

年次有給休暇の付与数と保持数の変転 

年次有給休暇制度の詳細 

年次有給休暇の付与日数 

年次有給休暇管理簿 

年次有給休暇時季指定義務の事業主対応 

年次有給休暇の時季指定義務(規定例) 

計画年休 運用上の論考 

2023/09/01

年次有給休暇制度の改正経緯

年次有給化の制度改正経緯を記録しておきます。改正時期は公布時で、施行時期ではありません。企業規模等で猶予期間が設けられたものもあります。

制定時初回
勤続1年
8割出勤
6日付与1年継続1日増  
昭62年改正10日付与短時間労働者比例付与計画年休
不利益取り扱い禁止
平5年改正初回
勤続6か月に短縮
平10年改正勤続2年6か月超2日逓増付与日数見直し
平20年改正時間単位付与創設
平30年改正年5日時季指定義務、管理簿創設

労基法制定当初は、勤続1年8割出勤を満たした労働者に6日付与、以後1年ごとに1日逓増でした。

昭和62年改正:初回6日から10日付与に引き上げ、パート短時間労働者への比例付与、計画年休制度(要労使協定)、不利益取り扱いの禁止条項の新設。

平成5年改正:初回勤続1年経過後付与が、6か月経過後に短縮。

平成10年改正:勤続3年6カ月以降から2日逓増、比例付与日数の見直し。

平成20年改正:年5日の範囲で時間単位での取得が可能に(要労使協定)。

平成30年改正:法定10日以上付与する労働者に対し年5日時季指定義務、年次有給休暇管理簿の創設。

(2023年9月1日投稿、2023年10月20日編集)

参考記事

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