2023/05/20

労災保険給付手続きは誰がするのか

勤務中にけがしたのに、いつまで待っても会社が労災保険給付の手続き進めてくれない、進めてもらうにはどうしたらいいかという質問を見かけます。

業務上被災にかかわらず通勤災害もそうですが、給付手続きする義務は勤務先にありません。被災者本人(あるいは遺族)にあります(労災保険法12条の7)。それでもしてくれる会社があるのは、従業員福利の一環、給付さえ受けてもらえれば、労基法上の会社に課せられた補償義務から免れるという理由もあるでしょう。

本来は、被災者本人が立ち回って、労基署に様式を取り寄せ(※)、必要事項を記入し、勤務先や病院に証明をもらい、労基署(療養給付は医療機関薬局)に提出となります。

では勤務先はまったく義務はないかというと、そうではなく先に述べたように、労基法上直接補償する義務があります。そこを被災労働者(あるいは遺族)が労災保険給付を受けることで、事業者は補償義務から免れます。労災保険法上、被災労働者からからまわってきた申請書に、すみやかに会社記入欄に記入証明し、また被災労働者が入院して動けないなら、申請までこぎつけられるよう助力義務があるのです(労災保険法施行規則23条)。

※しっかりした印刷機能環境をもちあわせているなら厚労省サイトにて様式集が掲載されてあり、印刷出力して利用できます。

(2023年5月20日投稿、2024年5月11日編集)

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2023/05/14

月間割増賃金計算の積み上げ

月間労働時間のカウント、そのうち法定休日労総時間、時間外労働時間のカウントがむずかしい、36協定の限度時間枠におさまっているかの確認がよくわからない、そして働いた時間分の賃金、とくに60時間超の割増賃金の付け方がわからない、という質問をみかけました。

36協定の限度枠

会社が結んだ36協定内容は、複数の要素が入り組んで複雑にして理解しにくいです。残業を命じる部下のいない従業員は、勤め先に協定があることを把握しておけばいいでしょう。しかし、残業させる部下のいる上司は、36協定の内容をすみからすみまで理解しておかないといけません。はたして今月の限度時間を使い切ったか、常時把握していないことには、月しめてから上限突破がわかってからでは、あとの祭りです。日ごと、月初の累計把握がかかせません。違法残業させた取り調べを受けるのは、経営者の社長でなくまず部下の直接の上司です。ただ単に、月枠だけでなく年枠、そして過去5カ月の勤務状況等から求まる上限のうち、最小値が何時間かが重要です。以下、どの値を把握していなければならないか一覧にしてみました。

 時間外法定休日
36協定なし日8時間、週40時間こえて労働させてはならない法定休日に労働させてはならない
有効な
36協定あり
協定枠内でも法定休日労働含む時間外労働が月100時間に達してはならない
同じく法定休日労働含む時間外労働が当月含め過去2か月~6か月平均80時間超えてはならない
 一般条項月45時間、年360時間まで(協定時数が短いならその時間まで)協定回数まで
 特別条項一般条項の月枠限度枠を超える手前で月間特別条項の発動は年6回まで
法定休日労働を含め時間外労働は月間協定時数まで
一般条項の年枠時間外時数をこえる手前で特別条項発動しても年間時間外720時間まで(協定時数が短いならその時数まで) 

週間労働時間のイメージ

 時間外労働 法定休日労働
        
   
   
  ↑ 
 
 

法定労働時間

 ↓
← 週 4 0 時 間 →

月間賃金率のイメージ

  時間単価×1.50 
  【休日割増賃金】
時間単価×1.35
 【時間外割増】
時間単価×1.25
 【所定賃金】
 ← 所定労働時間 →← 時間外60時間まで →60時間超 → 

割増賃金計算

最後に月の時間外割増計算例です。時間単価1000円、月間累計が次のとおりだとして、

時間外労働(日)49時間
時間外労働(週)23時間
法定休日労働27時間
法定休日割増賃金27×1000×1.35=36,450円
時間外労働全体49+23=72時間
60時間内25%60×1000×1.25=75,000
60時間超過50%(72-60)×1000×1.5=18,000

時間外割増賃金にはこういう算出方法もあります。

時間外全体25%72×1000×1.25=90,000
60時間超過25%プラス(72-60)×1000×0.25=3,000

(2023年5月14日投稿)

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36協定における休日の限度時間 

月間時間外集計 

2カ月ないし6カ月平均 

36協定に書く数字 

時間外労働のカウント 

法定休日とはいつか 

表の表示が崩れる場合は、横長画面か、ウェブバージョンでご覧ください。

2023/05/11

労災保険未加入に罰則がない

任意でない強制適用の事業所が、雇用保険、健康保険、厚生年金保険に未加入(正しくは被保険者手続き懈怠)の場合、次のような罰則がまっています。

  • 健康保険法 48条違反(208条 懲役6月、罰金50万円)
  • 厚生年金保険法 27条違反(102条 懲役6月、罰金50万円)
  • 雇用保険法 7条違反(83条 懲役6月、罰金30万円)

ところが労災保険にはこの手の罰則がありません。なぜでしょう。まず労働者であればだれでもカバーするので、労災保険に被保険者手続きというものがありません。そして事業主が手続きしていない労災保険未加入でも、次の条件みたしていれば被災労働者(遺族)の申請請求で労災保険給付されるからです。すなわち被災者が事業者に雇われた労働者であること、事故が業務上(通勤)災害であること。

そもそも業務上災害については、一義的に労働基準法(第8章 災害補償)が無過失責任にて補償義務を事業者に課しています。その事業者が補償しないと刑事罰が待っています。ただ被災労働者が労災保険から給付をうければ、その範囲で雇用主は補償義務を免れます(労働基準法84条)。

その代わり、未加入、保険料滞納中の保険事故への給付に要した費用を政府は怠慢事業主に求償します(労災保険法31条(徴収法4条の2第1項の規定による届出、同法10条2項1号の一般保険料を納付しない期間))。

(2023年5月11日投稿)

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2023/05/03

当月締め、当月支給の離職証明書の書き方

賃金支払いの違いで、離職証明書の書き方が異なる2タイプを比べて説明してみます。パターンAは月末日締め、翌月支給の場合、パターンBは、同じく末締めですが、基本給当月支給、残業代、欠勤控除は翌月支給での清算の形をとる場合です。月給制(日給月給を含む)の労働者が、締め日に退職した形です。月給制は本来なら、(A)に基本給、残業代合算した額を記載します。ここでは視認性高め、理解の一助となるため(A)基本給、(B)残業代に分けて書いてあります。実際は記載要領に従い記入願います。また基本給、残業代の1桁目は何月分のかを示しています。

パターンA:月末締め、翌月支給

⑫賃金額 給与明細
賃金支払
対象期間
⑩の基礎日数 基本給残業代総支給額
(A)(B) 200,0061,236201,242
6月1日離職日30200,0061,236201,242 200,0052,345202,350
5月1日5月31日31200,0052,345202,350 200,0043,454203,458
4月1日4月30日30200,0043,454203,458 200,0034,563204,566

パターンB:月末締め、当月支給(当月残業代は翌月支払)

⑫賃金額 給与明細
賃金支払
対象期間
⑩の基礎日数 基本給残業代総支給額
(A)(B) -1,2361,236
6月1日離職日30200,0061,236201,242 200,0062,345202,351
5月1日5月31日31200,0052,345202,350 200,0053,454203,459
4月1日4月30日30200,0043,454203,458 200,0044,563204,567

(2023年5月4日投稿)

参考サイト

ハローワーク  業務取扱要領50451(1)「賃金日額の算定の基礎となる賃金」

同  記載例「残業をした月に戻して記入」

表の表示が崩れる場合は、横長画面か、ウェブバージョンでご覧ください。

2023/05/01

変形労働時間制とシフト制

変形労働時間制はシフト制である、という思い込みが抜けないのでしょうか、そんな質問、回答を見かけます。シフト制でない変形労働時間制変形労働時間制でないシフト制もあることを図表で説明してみました。

 シフト制
なしあり
変形労働時間制 なし法定労働時間(日8時間週40時間)内の勤務(全員同一時間帯に勤務)各人、法定労働時間内にして複数勤務時間帯を入れ替わり勤務
あり週平均40時間内の勤務
(全員同一時間帯に勤務)
週平均40時間内にして複数勤務時間帯を入れ替わり勤務
備考早勤、夜勤といった複数時間帯設定あるもそれぞれ専属(入れ替わりなし)、あるいは全員同じ時間帯で働くも日によって働く時間帯や所定労働時間が異なる勤務体系を含む複数人で異なる労働日・休日を定期、不定期に設定する形態を含む(単一・複数時間帯いずれでも有り)

厚生労働サイトでは、「いわゆる「シフト制」について」と題し、注意喚起を行っています。ここでいうシフト制とは、就業規則等で各班定期的に規則正しく入れ替わるタイプ(これもシフト制)でなく、事業者による恣意的に運用されやすい不規則タイプに注意を呼びかけています。

(2023年5月1日投稿)

関連項目

・wikipedia 日本語版「シフト勤務」

変形労働時間制とは 

変形労働における時間外労働の把握2 

変形労働時間制の時間外労働の把握 

変形労働時間制と休日の関係 

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