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2024/04/15

月をこえるフレックスタイム制

前回記事フレックスタイム制に関連した続きです。

2019年働き方改革法施行で、労基法に新設された労働時間の制度のひとつに、フレックスタイム制の拡張があります。

従前は、1か月以内単位だったのが、清算期間3か月以内に拡張されました。清算期間1か月を超える場合、締結した労使協定は労基署に届け出義務が付され、有効期間の定めを設けなければならなくなりました(過半数労働組合との労働協約である場合をのぞく)。労使協定は免罰効果の発生しかないので、労働者の権利義務を定める就業規則にフレックスの要件規定しなければならず、要件盛り込む就業規則の変更手続きもあわせて必要です。

ここから本題です。下記に述べるように、1カ月(以内)ものフレックスより3か月(以内)フレックスを導入する場合、慎重に検討する項目があります。

計算値は小数点第4位を四捨五入、分未満切り捨て
暦日数月あたり週平均50時間
(計算値)時間
28日200.0002000
29日207.1432078
30日214.28621417
31日221.42922125

それは時間外労働を含む労働時間管理です。

1つ目は、各月週平均50時間超える部分は、時間外労働として、その月の賃金計算期間にて時間外割増賃金支払いを要します。その月の実総労働時間が右表を超える時間を時間外労働とします。

月の暦日数×50時間÷7で求めます。最終月が月未満の端数期間である場合はその暦日数から求めることになります。

2つ目は、1つ目で超過に該当する時間を控除したうえで、3月以内の清算期間の実総労働時間が法定総枠時間超えした時間に対し、時間外労働として把握します。清算期間の暦日数×40時間÷7で求めます。これは原則最終月に発生しますので、36協定特別条項をもうけていないと、最終月の1と2あわせた時間が、協定時間のたとえば45時間に収めないといけません。

暦日数法定総枠時間
(計算値)時間
89日508.57150834
90日514.28651417
91日520.00052000
92日525.71452542

コンスタントに20時間の時間外労働をこなしている場合、月で見ればなんでもない月間20時間時間外労働ですが、フレックスの3カ月目最終月には累計ともいうべき60時間に達するわけで、その超過は月間60時間超5割増し賃金の対象になります。いうなれば36協定の月枠がどんなに大きく設けても複数月単位フレックスに対しては単月限度枠1/3にせばまるイメージに等しいでしょう。

このことから複数月フレックスを導入するのであれば、ある月の所定超え労働時間を清算期間内の別月の勤務時間縮小により労働者が解消させることのできる勤務形態でなければ、導入は見合わせたほうがいいでしょう。

(2024年4月15日投稿)

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2024/04/01

フレックスに似て非なるもの

たまに見かける質問なのですが、何時に出社始業してもよいが8時間働かないと、帰ることがゆるされない、違法ではないですかという質問です。フレックスと称してなければ、こういう勤務形態もありです。フレックスではないので、労使協定も不要です。

フレックスでなければ何なのかといえば、ずらし勤務の一形態でしょう。始業時刻を事業者でなく労働者が自在に決められる一方、フレックスのもう一つの要件、退社時刻は自在にきめられませんので、フレックスではないのです。ないけれども、こういった勤務形態を就業規則等に定めておく必要があります。所定労働時間が日8時間週40時間という法定労働時間におさまるなら違法性はどこにもありません。この場合、休憩時間をのぞく8時間経過後からは、時間外労働として時間外割増賃金が必要です。もちろん36協定もです。

次にスーパーフレックスと称して、4時間なら4時間最低在社を義務づける会社を見かけます。コアタイムなしをスーパーと呼称してますが、退勤時間を制約するので、少なくともスーパーとはいえません。するのであれば、コアタイムは何も全社一律である必要はありませんので、出社から4時間はコアタイムとして協定しておく必要があります。

(2024年4月1日投稿)

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2023/08/01

猶予事業の36協定

2024年3月末日をもって、次の業種、業務の労働時間規制猶予が切れます。旧法で36協定を結べていたものが、新法適用となります。全面適用というわけで無く、適用されない部分もあります。その説明は別の機会にして、

  • 建設事業
  • 自動車運転業務
  • 診療医師

結んでいる36協定がどうなるのか、ちらほら質問が上がってきていますので、わかる範囲で説明してみたいと思います。

建設の事業は、労基法139条第2項、同法附則(平成30年7月6日法律第71号)2条により、対象期間のうち2024年3月31日、同年4月1日の両方を含む36協定は、その協定の始期から1年間は旧法の適用となります。

たとえば、令和5年8月1日開始翌年7月31日までの旧様式での36協定は7月の終期まで有効で、令和6年4月開始の新しい協定を結ぶ必要はなく、令和6年8月1日開始の新法適用の新協定を開始前に締結届出すればよいことになります。

働きかた改革法サイトにあった労基法Q&Aの抜粋です。

2-8 時間外と休日労働の合計で、複数月平均80時間以下の適用は、新法適用から開始し、複数の36協定期間をまだいでの計算となりますが、旧法適用分は計算対象とはなりません。
2-20 施行日前と施行日後にまたがる期間の36協定は、協定の初日から1年間に限りその協定は有効。よって4月1日に協定しなおす必要はなく、その協定1年経過後に新たに定める協定から、上限規制に対応した協定にしてください。
2-24 複数月平均80時間以下とする規制は、どの36協定期間にかかわらず通して計算する必要があります。ただし猶予期間を計算に含める必要はありません。

厚労省が、猶予事業に対する事業者向け、国民むけ啓蒙サイトを開設しました。この中に、建設事業の「災害復旧復興事業」対応の36協定様式(第9号の3の2、3の3)が紹介されています。

(2023年8月1日投稿)

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2023/07/01

裁量労働制の失効

2024年4月に労基法施行規則を改正する形で、裁量労働制が改正されます(専門型、企画型共に)。パンフでは、はっきり失効するとは書かれてはいませんが、施行前の2024年3月までに、新規・継続問わず労使協定締結して(継続は締結しなおして)、届け出るように呼びかけています。

専門職型でいえば、

  • 本人に同意を取り付けること
  • 同意が得られなかった場合、不利益取り扱いをしないこと
  • 同意撤回の手続き方法
  • 記録保管の追加として、同意と同意撤回の記録(協定有効期間中と期間満了後5年 (当面3年))

を協定に追加記載して、締結手続きをとることになります。企画型は上に加えてさらに追加の協定事項があります。

移行措置や、Q&Aがでてみないと、わからないところもありますが、協定にもりこむのですから、現行協定を2024年4月以降継続させるには、協定締結しなおしとともに対象労働者から個別に同意取り付けも要するということです。締結しなおしてない、個別同意取り付けてないということは、施行日以降、裁量制で働く対象労働者はいない、通常の労働時間制で働く労働者だけということになりかねません。

追補

2023年8月2日付けで出た通達に記載されていました。現行のまま、協定締結しなおさない場合、令和6年4月1日をもって無効となります。追加された協定事項を盛り込んだ協定をあらためて締結しなおしとなります。これは来年4月1日発効を条件に、3月31日以前に締結可能としています。また個々の労働者からの同意取り付けも同様に必要になり、有効期間ごとに取り付け、その証憑の保管は協定有効期間とその後5年(当分3年)となります。

関連サイト
厚生労働省 裁量労働制の概要
裁量労働制改正パンフ

(2023年7月1日投稿、2023年11月3日編集)

2023/06/12

代休の効果とは

このブログの随所に書いた代休についてのまとめ記事です。休日出勤させても、あとで代休させれば、休日労働、時間外労働とは相殺できる、なかったことにできる、と勘違いされている経営者多数いらっしゃいます。

そこでネット記事を検索してみたのですが、休日出勤と割増賃金の相殺、すなわち「時間」と「賃金」の相殺について書かれた記事が大半で、時間は時間と賃金は賃金とを書きわけた記事がほとんどみあたらなかったのです。ここでは「時間」と「時間」の相殺について書き留めておきます。

たとえば今月の残業が、45時間越えそうだ、超えてしまったので、急遽代休させる、あるいはいつかわからないけれど代休させるので、36協定時間に計上しなくともよい、という誤った考えがはびこっています。労働者からの質問で、代休とれずに、あるいは公休消化できずに退職するけど、どうしたらいいかという質問を結構みかけます。その裏事情には、休日出勤の賃金が一銭もはらわれていないことがうかがえます。

一度、法定労働時間を超えてしまえば、超えたという事実は、あとから何かをして帳消しにすることはできません。法定労働時間とは日8時間、週40時間のことで、この時間をこえた労働は時間外労働として扱われ、36協定無しには労働させることができません。

どういう理屈をこねてだか、代休させることで時間外労働をさせた事実を消し去ろうとします。ある日10時間働かせ、2時間時間外労働が発生しました。翌日所定8時間のところ、2時間早帰りさせたとして、見かけ上相殺されるのは、給与明細上の支払賃金です。

時給1500円で説明します。ある日10時間働かせたので、

1500円×8時間+1500円×1.25倍×2時間
=12000円+3750円=15750円

翌日8時間分12000円でなく、2時間早帰りの3000円マイナスすることで、割増賃金2時間分払わなくともよい、とはなりません。0.25倍部分の750円の支払がのこります。1日休日出勤の1日代休でもおなじことです。0.25もしくは0.35部分が残ります。一方で36協定の月間累計時間といったものはいっさい減りません。

以上は「時間」と「賃金」の相殺となっており、民法の相殺にあたりません。払うべき「賃金」と引き去る「賃金」との給与明細上の見かけの相殺です。時間外させた「時間」と代休や早帰りさせた「時間」同士の相殺はできません。

極端な話、ある日休日労働させ、その翌日以降その月末まで代休や有給で全休してもらったとしても、その休日労働させた事実は消えません。相殺できるのは、金銭の「債権」と「債務」の間で給与明細上払うものは払い、引けるものは引かせてもらう見かけ上の相殺できるのであって、「時間」と「賃金」の相殺はなしえないのです。また当月45時間超えた時間外労働時間を減数する効果は、代休にはありません。代休させたことで時間の唯一の効果は、代休させた週の40時間枠にゆとりができるというものです。その週の時間外労働のうち、週枠にカウントする時間で、40時間枠に空きが増えるということでしょう。その意味で法定外休日に休日出勤させた週に代休させれば、その週の40時間枠超の発生を抑える効果はありましょう。なんでもかんでも休日出勤を、法定休日労働や時間外労働に組み込んでおられるなら、そこは見直しされるといいでしょう。

(2023年6月12日投稿)

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2023/05/01

変形労働時間制とシフト制

変形労働時間制はシフト制である、という思い込みが抜けないのでしょうか、そんな質問、回答を見かけます。シフト制でない変形労働時間制変形労働時間制でないシフト制もあることを図表で説明してみました。

 シフト制
なしあり
変形労働時間制 なし法定労働時間(日8時間週40時間)内の勤務(全員同一時間帯に勤務)各人、法定労働時間内にして複数勤務時間帯を入れ替わり勤務
あり週平均40時間内の勤務
(全員同一時間帯に勤務)
週平均40時間内にして複数勤務時間帯を入れ替わり勤務
備考早勤、夜勤といった複数時間帯設定あるもそれぞれ専属(入れ替わりなし)、あるいは全員同じ時間帯で働くも日によって働く時間帯や所定労働時間が異なる勤務体系を含む複数人で異なる労働日・休日を定期、不定期に設定する形態を含む(単一・複数時間帯いずれでも有り)

厚生労働サイトでは、「いわゆる「シフト制」について」と題し、注意喚起を行っています。ここでいうシフト制とは、就業規則等で各班定期的に規則正しく入れ替わるタイプ(これもシフト制)でなく、事業者による恣意的に運用されやすい不規則タイプに注意を呼びかけています。

(2023年5月1日投稿)

関連項目

・wikipedia 日本語版「シフト勤務」

変形労働時間制とは 

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変形労働時間制の時間外労働の把握 

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2023/04/15

36協定における休日の限度時間

時間外労働させるに必要な36協定は、労働者過半数代表選出し、代表との36協定を締結し、労基署届出て効力を発します。届出で発効する点が、他の労使協定と異なります。

その記載事項に、日の限度時間を記載する箇所があります。ただ月、年とは違い、締結する日の限度時間数に上限は法定されていません。そこを3時間でも4時間とでも記載したら、その時間超えての時間外労働はできません(理論上は日15時間が上限)。

で、休日労働させた場合はどうなのか、たまに質問を目にします。ここでいう休日労働には、法定休日労働と、法定外休日労働とがあります。前者は、36協定届の一般条項枠欄下部に記載します。必須ではありませんが協定で時間数取り決めたなら、それに縛られることになります。後者は、法定外休日労働のすべてが時間外労働となるわけでなく、日8時間、週40時間超過したところから時間外労働です。

そこで本題、日3時間限度と記載したなら、週40時間すでに働ききった週の法定外休日労働そのものが3時間しかできないのか、という疑問がわきます。協定のしかたにもよりますが、ただ単に3時間と取り決めた場合、8時間超過したところからが日の限度時間の対象となります。あわせて11時間労働が可能です。

ただし、週40時間使い切っている場合、始業から時間外労働ですので、他の協定枠、週(任意)、月、年の限度時間を超過することはできませんので、その点は注意が必要です。

余談として、働き方改革で36協定届様式が刷新され、月、年の限度時間(一般条項)が法定されたのですが、これらを超えて働かせる場合の特別条項に、日枠欄が出来たのには正直驚きでした。日枠に法定上限がありませんので、はっきり言って、任意欄は書かない方が無難です。日は一般条項欄で多めに取っておかれるといいです。その欄に3時間とし越えそうだったら特別条項発動にさいし、記載された手続きをとるに、上司がからむなら、夜間お休みしている上司に延長していいか連絡が入るはめになるからです。

(2023年4月15日投稿)

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月間時間外集計 

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時間外労働のカウント 

2023/02/10

月間時間外集計

時間外労働の計算するにも、どうもいりくんでいて一筋縄には行かないのでしょう。そこで練習問題を作ってみました。マス目の左肩は日付、右下は実労働時間(簡便にするため分単位はなし)を記載してあります。2重線で囲んだ範囲が月内となります。(※試作品のため集計間違い等修正することがあります。)

 
Ⅰ 週  12345
Ⅱ 週6789101112
10
Ⅲ 週13141516171819
Ⅳ 週20212223242526
11
Ⅴ 週2728293031  
11

毎週休める休日をいれてますので、法定休日労働を考慮することはありません。実労働時間の日8時間超えをピックアップ、そして日で時間外としなかった時間を週集計して40時間超えを捕捉してみてください。週は日曜始まり、変形労働時間制を取っていないものとします。

 
Ⅰ 週  12345

第1週、毎日定時で帰って日々の時間外はありませんが、土曜日がこの週の6勤務目ですので、この日の8時間が週40時間超えの時間外労働となります。

 
Ⅱ 週6789101112
10

第2週、週全体でみると40時間に収まっていますが、火曜日にした2時間時間外労働を、木曜に早帰りさせたとしても帳消しにはなりません。火曜の最後の2時間を時間外労働とカウントします。

 
Ⅲ 週13141516171819

第3週、毎日7時間労働で、日において時間外はありませんが、週累計で42時間となり土曜の7時間の内最後の2時間が時間外労働。週の時間外労働2時間となります。

 
Ⅳ 週20212223242526
11

第4週はどうでしょうか。日においては、
24日11-8=3
25日 9-8=1
計4時間時間外労働しています。次に週の累計するとき、24日、25日の両日、時間外とカウントした時間を除外して週集計します。ですので
8+7+7+(11-3)+(9-1)+8=
8+7+7+   8  +  8  +8=46
週40時間超えは6時間となり、土曜8時間の最後の6時間が時間外労働となります。あわせて10時間時間外労働です。

単純にこの週足し合わせて50時間になるのですから、40時間超え10時間とすればいいように思えます。それではいけないことを、次の週で説明してみます。(おなじく第2週で日を度外視した週累計では40時間ちょうどですので、時間外労働がないことになってしまいます。)

 
Ⅴ 週2728293031  
11

第5週も前週と同じように時間外労働したとします。しかしこの週の途中に月を跨ぎます。日のカウント、週のカウントは前週同様ですが、日のカウントのうち当月内は31日のみの3時間、それ以降の日、週超えのカウントは翌月に持ち越しとなります。

それでは時間外の週別集計表を作ってみました。この月の時間外労働は計25時間となります。

 前月計上当月計上翌月計上
 
Ⅰ 週  12345  
Ⅱ 週6789101112
10
Ⅲ 週13141516171819
Ⅳ 週20212223242526
11
Ⅴ 週2728293031  
11

2023年4月中小企業の月間60時間超5割増賃金支払適用開始されるところ、月の集計に関する解説記事がネット上に見当たらないのが気になるところです。 調べてみたら月間時間外時間集計は、平成22年改正労働基準法のあらまし7ページ以下のほうが詳しいです。 時間単位の説明でしたが、分単位も交えた説明は下記の「時間外労働のカウント」をご覧ください。

(2023年2月10日投稿、2023年3月2日編集)

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2022/09/01

フレックスタイム制と完全週休二日制

先の働き方改革法でフレックスタイム制といえば1カ月以内だったのが、1か月を超え3カ月を清算期間とするフレックスタイム制も可能となりました。

それとは別に、週休二日制のフレックスタイム制における弱点を補正する制度が、労使協定締結を条件に導入されています。それまでの通達運用で認めていたのを、法制化したのでした。

フレックスタイム制も変形労働時間制の一種で、たとえば月の実労働時間の累計が、暦日数の30日の月なら

暦日数から求まる法定上限:
 40時間×30日÷7日=171.42…(171時間25分)

をこえるところから時間外労働扱いになります。日々の出退時刻を労働者に任せるのと引き換えに、日の法定労働時間超えを時間外労働扱いしなくてよいとするのが、フレックスタイム制の肝です。ところが、祝日休のない6月のように、曜日の巡りによっては、ふつうの完全週休二日制で時間どおり働く分は時間外労働が生じないのに、フレックスタイム制で所定労働日を毎日8時間働くと、時間外労働が生じてしまいます。

2022年6月を例にあげてみましょう。水曜始まりで土日を休日とする完全週休二日制にして22所定労働日あり、完全週休二日制にて毎日8時間働くと

22×8=176時間
176時間ー171時間25分=4時間35分

フレックスだからという理由だけで法定総枠との差4時間35分に割増賃金つけるという不合理が生じます。そこで完全週休二日制を条件に労使協定を結べば、月(清算期間)の所定労働日数、上の例では22日×8時間=176時間をもって、その清算期間の法定労働時間に置き換えることを認めます。

ところがこれに関する説明がパンフにひととおりあるだけで、通達やQ&Aに見当たりません。なかには、導入理由から「清算期間の暦日数からもとまる法定労働時間」と、「同期間の所定労働日数の8時間倍」のどちらか長いほう、という運用がとなえられているようです。

暦日数法定総枠
(a)
所定
労働日数
(例:c)
法定総枠
(b)
c×8
a,bどちらか
多いほう
1月31日177.14時間21日168時間177.14時間
2月28日160時間20日160時間160時間
3月31日177.14時間23日184時間184時間
4月30日171.42時間21日168時間171.42時間
5月31日177.14時間22日176時間177.14時間
6月30日171.42時間22日176時間176時間
7月31日177.14時間21日168時間177.14時間
8月31日177.14時間23日184時間184時間
9月30日171.42時間22日176時間176時間
10月31日177.14時間21日168時間177.14時間
11月30日171.42時間22日176時間176時間
12月31日177.14時間22日176時間177.14時間
合計365日2085.71時間260日2080時間2113.14時間

完全週休二日制における法定労働時間の累計:
(365日-105日)×8時間=2080時間

それを認めてしまうと、年間約30時間(=2113-2085)※も時間外労働を、時間外労働としなくてもよいことになり、法規制強化の逸脱となります。

祝日休のある週の第3日休日は、所定労働日に含めていいのかという問いに、通達は詳しく解説してくれてませんが、祝日休のあるフレックスでない完全週休二日制とパラレルという考えにあわせれば、その休日は休日として数えることになるでしょう。以上のことから、所定労働日数の整数倍がその月の法定労働時間に置き換えられるということになります。もっとも祝日休に働きにでても、8時間こえなければ、週40時間におさまるので、しっくりこないところはあります。

完全週休2日制でありさえすればいいので、休日が毎週土日固定でなくともよく、今年の6月ような水曜始まりで、所定24日の8時間倍192時間ということもありえます(6月第1週の2休は5月最終週に、6月最終週の2休は7月第1週に配することで完全週休二日制遵守。)。このケースで※試算したところ年40時間の差が出ました。

なお、通達時代から変わらないように、フレックスタイム制だけに認められた制度ですので、同じことが起こるからと言え完全週休二日制の変形労働時間制(1カ月単位)には適用されません。

労働基準法第32条の3第3項意訳
一週間の所定労働日数が五日の労働者について第一項の規定により労働させる場合における同項の規定の適用については、同項各号列記以外の部分(前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)中「第三十二条第一項の労働時間」とあるのは「第三十二条第一項の労働時間(当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、労働時間の限度について、当該清算期間における所定労働日数を同条第二項の労働時間に乗じて得た時間とする旨を定めたときは、当該清算期間における日数を七で除して得た数をもつてその時間を除して得た時間)」と、「同項」とあるのは「同条第一項」とする。1週間を完全週休二日制のフレックスタイム制(清算期間3カ月ものも含む)にて就労させる労働者については、締結する労使協定により、労働時間の限度について清算期間中の所定労働日数を8時間倍した時間数(※1)をもってすると協定に定めたときは、法定労働時間週40時間とあるのは、その清算期間の暦日数を7で除した数(※2)をもって※1を割った時間(※3)とする。

※1:(例)23日×8時間=184時間 (月枠171時間25分のかわり)
※2:30÷7=4.2857…(清算期間の週数)
※3:184時間÷4.2857…=42.93…時間(法定労働時間週40時間のかわり)

(2022年9月1日投稿)

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2022/08/16

労働時間法制の詳細

法定労働時間

法32条の1項に週、2項に日の順に法定労働時間を定義したのは、週の法定労働時間48時間から40時間への短縮をし、各日に割り振る上限という考え方に基づきます。1項2項とも法定労働時間です。1週間とは就業規則等に別段の定めがなければ、暦に従い、日曜日にはじまり土曜日に終わります。1日は0時にはじまり24時に終わります。日を跨ぐ勤務でも、1勤務として扱い始業時刻の属する日の勤務として扱います

任意の7日をとって40時間に収まるとはしません。就業規則等に週の起算曜日があればその曜日、なければ暦週として日曜起算の1週間ごとに、40時間の判定をします。

午前0時をはさんで、前日夕から8時間つづけて8時間と各日に8時間わりふっての2日勤務でなく、前日からの1勤務16時間連続勤務として扱い、1か月単位の変形労働時間制をとらない限り、法違反に問われます。

通常の勤務が、時間外労働として翌日0時に及んだ場合、0時で分断することなく翌日の始業までの労働を前日の勤務として扱います(翌日が法定休日の場合は0時で分断)。

週2日のパートタイムであっても、継続的に雇われる者は労働者数に入ります

労働時間とは、客観的に使用者の指揮命令に従い労働者が事業のために服していると評価される時間を指します。

休憩時間に昼休み当番として来客にそなえ待機させれば労働時間です。一斉除外事業でないかぎり労使協定が必要となります

使用者の明白な残業指示、あるいは業務量が客観的に見て正規の所定労働時間にこなせないといった黙示の業務指示により、法定労働時間をこえた時間は時間外労働となります

手持ち時間が大半でも、出勤を命じられ一定場所に拘束される場合は労働時間です

作業内容により終業後入浴が不可欠でも、労働時間にはいりません

使用者が実施する教育に対し、制裁低評価等の不利益取り扱いがなく、出席の強制がない自由参加であれば、労働時間ではないです

労安衛法59条60条の安全衛生教育は、所定労働時間内に実施し、労働時間として扱うこと

安全・衛生委員会の会議時間は労働時間です

定期健康診断は所定労働時間内に行い賃金を支払うことが望ましい。有害業務に従事させることで実施する特殊健診は、事業者の義務として労働時間として扱い賃金支払うこと

勤め先が火災に見舞われ、帰宅途上の労働者が任意にかけつけ消火作業した時間は労働時間である

一か月単位の変形労働時間制

  • 労使協定
  • 就業規則
  • それに準ずる書面

において、変形期間の各日、各週の労働時間を具体的にあらかじめさだめることを要し、変形期間を平均して週40時間に収まっても使用者都合で任意に変更するのは、該当しない。就業規則には各日の労働時間の長さだけでなく、始業終業時刻を定めることを要する

業務の実態にそって、就業規則には各直始業終業時刻、各直勤務の組み合わせ方、勤務表の作成周知方法を定めておくにとどめ、具体的に勤務表において変形期間開始前までに確定すればよい

3交替の番方転換を行うことを就業規則等に規定し労働者に明示し、変形期間を平均して40時間に収まること。欠勤者に代勤のために労働時間を変更することは、変形労働時間制にあたらない

労使協定によるか、就業規則等によるかは、使用者が決定できる。労使協定による場合でも、就業規則の規定する事項を定め、周知する必要がある

労使協定による場合、有効期間は3年以内とする

就業規則「その他これに準ずるもの」とは、就業規則制定義務のない使用者に適用される

対象労働者に周知しないなら「定め」にあたらない。

変形期間の法定総枠とは、40×変形期間の暦日数÷7。変形期間の所定労働時間の合計が、総枠に収まらなければならない

「特定された日」「特定された週」とは、就業規則によって日8時間、週40時間を超えて労働させる日、週の意味です。その特定された時間が、日8時間を超え、週40時間をこえていても、時間外労働とならず、時間外割増賃金の支払対象となりません

特定している時間といえども臨時にあるいは随時に業務の都合で延長し短縮し、遅刻欠勤と相殺し、法定労働時間以内であることをもって割増賃金を支払わないことは、法違反です

特例事業の労働者数の変動は、臨時に雇入れまたは欠員が生じたときは、変動として扱わず、ボーダー上の事業所は、週所定40時間以下とすることが望ましい

振替休日の結果、特定されてない日に8時間、特定されてない週に40時間超えた部分は、時間外労働となる

一年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制を採用する場合、労使協定により変形期間にわたり労働日、労働日ごとの労働時間を具体的に定めることを要します。業務の都合で使用者が任意に労働時間を変更する仕組みは該当しません

1年単位の変形労働時間制を採用する場合においても、就業規則に始業終業時刻、休日の定めを要する。ただし労使協定で1か月以上の区分ごとに労働日数、総労働時間を定めた場合は、就業規則に勤務の種類ごとに始業終業時刻および休日、勤務の組み合わせ方、勤務表の作成周知方法を定めておき、各日ごとの勤務表は最初の期間は当該勤務の開始前に、以後各期間の初日30日前に具体的に定め、労働者代表の同意を得ることでたります

労働者代表の同意が得られなかった場合は、その期間原則的な法定労働時間、日8時間週40時間の範囲での就労となります

特定した日、週

就業規則に1年単位の変形労働時間制を規定せず、労使協定に就業規則の内容となる始業終業時刻等が定めることは可能ですが、その場合は就業規則に労使協定の条文番号を記載し、労使協定は就業規則の別紙として扱います。 夏の3カ月にかけ夏季休日3日を与えると規定しただけでは、休日が特定されてないことすなわち労働日が特定されてないことにあたります

変形期間の途中で、随時特定した時間を変更することは労使合意があっても認められません

繁忙期として特定期間を変形期間の相当部分を占めることや、特定期間を期間中に変更することは認めらません

特定期間を複数設けることは可能です。特定期間を設けないなら「特定期間なし」と労使協定に定めること、あるいは記載ない場合「特定期間なし」とみなします

通常の業務の繁閑により振替休日が通常行われる業務に、変形労働時間制を採用できません。予期しない事情でやむなく振替休日を行う場合は、

  • 就業規則に振替を行う旨の規定を置き、振り替える具体的事由、振り替える日をあらかじめ特定すること
  • 特定期間は週1休日、特定期間以外は6連続勤務が最長となること
  • 振り替える労働日が所定8時間をこえた日である場合は、8時間超えた部分は時間外労働となること

1の事業所で、期間、対象労働者の異なる変形労働時間制を複数並置することは可能で、それぞれ労使協定を締結して届け出ることになります

異なる変形労働時間制への労働者の異動は、同一事業所内でも労基法32条の4の2に定める清算の対象です。

週48時間超える週連続3週等の制約をさだめた週は暦週でなく、対象期間の初日の曜日起算の週です

週48時間超える週連続3週等の制約をさだめた週が、3カ月ごとに区切った期間を跨いでも、その週48時間超えるなら週の初日を含む期間にカウントされます。 3カ月を超える1年の所定労働日数の限度は280日。3カ月を越え1年未満の場合は、280日×対象期間の暦日数÷7で求まる日数が限度です

変形期間の所定労働時間の限度は、40時間×対象期間の暦日数÷7で求まる労働時間が上限です

有効期間は、1年程度が望ましいが、3年程度以内であれば受理してさしつかえない

派遣労働者を派遣先で1年単位の変形労働時間制で就労させるには、派遣元で労働日、各日の労働時間を具体的に定めた労使協定を締結する必要がある

1年のうち、変形労働時間制を適用する期間、適用しない期間を設けることは可能です

1週間単位の非定型的変形労働時間制

日ごとに著しい繁閑が生じ、予測して就業規則等に特定できな事業として、小売業、旅館、飲食店の事業でかつ30人未満の事業所に限る。 1日の所定労働時間の上限は10時間(週は40時間)。労働者への通知は、1週間分を開始前に書面で通知する


(2022年8月16日投稿)



2022/07/07

2カ月ないし6カ月平均

働き方改革法で、時間外休日労働の上限規制が数値として法制化されました。いままでは法の外、大臣告示の基準として示達されていただけに、労基法70年余の歴史上、数値法定化は画期的な出来事です。そのひとつに、法定休日労働を含む時間外労働時間が、単月100時間に達してはならず、2カ月ないし6カ月平均で80時間を超えてはならないというものがあります。計算方法は煩雑なのですが、例示してみましょう。

年月R4.2R4.3R4.4R4.5R4.6R4.7
時間外労働時間806045355579
法定休日労働0201510300
合計808060458579
 
 6カ月平均
 5カ月平均
 4カ月平均
 3カ月平均
 2カ月平均
 
 6カ月平均5カ月平均4カ月平均3カ月平均2カ月平均
合計時間429349269209164
平均時間71:3069:4867:1569:4082:00

先月の時間外が単月80時間に収まっていても、平均をとったところ80時間オーバーでは、法違反となります。おわってからの計算で80オーバーと気付いたのではあとの祭りです。この例では6月が終わった段階で、今月(7月)は何時間が上限か算出可能です。平均を求める算出式を変形しています。労務担当者はぬかりなく算出したうえで、社内通達して今月の上限時間を徹底する必要があると言えるでしょう。なおその最小値が100時間(以上)とでても、単月100時間に達してはなりませんので、99時間59分という値になります。

あらかじめ6月終わった段階の7月上限計算例です。

6カ月×80時間-[2~6月]=a480-350=130
5カ月×80時間-[3~6月]=b400-270=130
4カ月×80時間-[4~6月]=c320-190=130
3カ月×80時間-[5~6月]=d240-130=110
2カ月×80時間-[6月]=e160-85=75

[括弧内]の月範囲は、その期間の時間外・休日労働時間の合計数値です。求まるa~eの最小値が今月(7月)の時間外・休日労働時間上限となります。上の例では、7月の最大は75時間が上限だったわけで、それを求めずにいると平均80時間以上働かせる危険性があります。場合によっては今月上限0に近い数値がでることもありますので、毎月早急に今月可能時間外・休日労働時間数をもとめて、部門長に厳命する必要があるでしょう。組織が大きければ大きいほど、動きを急に止めることはできませんから、あらかじめ部下を持つ上長に対し、新労基法のしくみを周知徹底し、体制を整えておくのはいうまでもないでしょう。

特別条項の年間発動回数は、対象期間が終わればリセットされますが、この2~6カ月平均は、新法による36協定期間であれば期をまたいで求めます。この例では、仮に4月から新36協定期間でも、2月3月の時間を用いて6か月5カ月平均を求めます。また転勤してきた人も、前職の時間外休日労働時間数も対象ですので、自己申告いただくようにしてください。

関連記事

36協定に書く数字 

時間外労働のカウント 

(2022年7月7日投稿、2022年11月12日編集)

表の表示が崩れる場合は、横長画面か、ウェブバージョンでご覧ください。

2022/04/16

36協定に書く数字

働き改革法により新調された36協定。締結できる協定時数が、法定されました。その法定時数こえた協定は結んでも全体が無効です。そこで入り組んだ時間数を表にして区別してみました。任意記載欄は記載しなくともよいので、略しています。一般条項なる呼称は、特別条項に対して名付けています。

 協定できる上限個人を働かせ
られる上限
休日労働を含み月100時間未満、2カ月~6カ月平均80時間以下※3
一般条項時間外労働上限なし※45(42)時間※1360(320)時間
休日労働上限なし※2
特別条項時間外労働(記載任意)年間6回最右欄
参照
720時間
休日労働 ※4 

※:日の上限は論理上翌日始業までにあたる15時間(=24時間-法定8時間-休憩1時間)

※1:カッコ内は、変形期間3カ月超の1年単位の変形労働時間制をとる場合の上限(右隣年枠についても同じ)。

※2:(下記記事参照)

※3:年間協定時数(回数)は、協定期間が終了すればリセットされるが、この2カ月ないし6カ月平均80時間算出は改正法適用期間であるかぎり前協定期間までさかのぼり算出する。雇用主が異なっても適用されます。よってこの情報は5カ月前にさかのぼり本人同意を得て前雇用主に情報提供いただくか、または本人に自己申告してもらうことになります。(なぜ6カ月でなく5カ月かは下記「参考記事」参照ください。)

※4:日の上限の特別条項記載が任意になっています。一般条項でめいっぱい上限時数を設定し、日の特別条項記載しない方が無難です。記載してしまうと、日勤者であれば、一般条項の限度時数をこえる夜中に、特別条項発動手続きに関係者を巻き込むことになるからです。

法定休日の日数

ここでいう休日労働とは、法定休日のことで、0時から24時までの時間帯の労働時間が対象です。一方法定休日労働は、日8時間週40時間という法定労働時間をこえてはじめて時間外労働にあたります。この欄への記載日数について、月を単位にすると法定休日の最大出現数は次のようになります。

 曜日固定曜日不定
週休制5日6日
変形週休制5日8日
割り増し率

特別条項を協定する数字には、一般条項の限度時間数をこえた最大時数だけでなく時間外割増賃金の割り増し率があります。上の表の※1協定した時間を超え、月60時間(年720時間)までの時間外労働に対して、割増率2割5分増し以上の率を定めます(労基法37条2項5号、同法施行規則17条1項6号)。

(2022年4月16日投稿、2023年11月15日編集)

参考記事

36協定のチェックボックス 

月間時間外集計 

36協定における休日の限度時間 

2カ月ないし6カ月平均 

時間外労働のカウント 

法定休日とはいつか 



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2021/12/30

変形労働時間制とは

変形労働時間制とは何でしょうか。よくこんな質問を見受けます。簡単に説明してみましょう。


人を使って働かせるには、法定労働時間を超えて働かせることができません。法定労働時間とは、日8時間、週40時間と定められています。これを超えて働かせると、その使用者は罰されます。これでは、病院の入院病棟や、老人ホームの福祉施設など終日夜勤させたい場合や、長距離トラックの運転など、さまざまな業態で支障がでてきます。人員確保して8時間3交替にするか、36協定を結んで割増賃金支払うしかありません。だからといって交代要員をトラックになにもさせずに同乗させるのも不経済です。そこで一定期間平均したら週40時間以下に収まる勤務体制を組むなら、労働者を使用してよいとする例外制度を設けました。それが変形労働時間制といわれているものです。


あらかじめ1カ月(あるいは1年)以内の一定期間の中で、労働日と労働時間を定めておきます。さだめた所定労働時間の累計時間をA、その一定期間(暦日数)をBとします。Bを7で割れば、その期間は何週分にあたるかの値Cになります。

AをCで割れば週あたりの労働時間がでます。その値が40時間以下なら、変形労働時間制として法定労働時間の例外として許容する制度です。

計算式:A÷(B÷7)≦40

ここでは何種類かある変形労働時間制のうち、一か月単位の変形労働時間制で説明します。この制度は大きく分けて、ひと月のうち繁閑が予測できるタイプと、夜勤など長時間勤務を組むタイプでの利用が見込まれています。

前者で説明すると、たとえば前月の締めをする経理とか給与計算事務のように、月のどの期間に業務が集中するかわかっているタイプに向いています。すなわち月の第5営業日までは、毎日10時間労働、その後は仕事がおちつき月末までの各労働日は7時間労働と、あらかじめ就業規則に定めておくことで、一か月単位の変形労働時間制を導入できます。変形労働時間制でないと10時間労働の日は2時間時間外労働ですが、変形労働時間制とすることで、変形期間を通じ平均して40時間以下に収め、その時間どおりに働かせる分には、時間外労働の発生はありません。

(表1)月の第5営業日までは、所定10時間、それ以降は所定7時間。

  12345
  10:0010:0010:0010:00 
6789101112
 10:007:007:007:007:00 
13141516171819
 7:007:007:007:007:00 
20212223242526
 7:007:007:007:007:00 
2728293031  
 7:007:007:007:00  

月間所定労働時間 10:00 × 5日+7:00 × 18日 = 176時間 

週平均 176時間÷(31日÷7日)=約39時間44分

後者のタイプですと、超時間夜勤専門で1勤務2日にまたがる16時間労働、月10勤務までと就業規則に規定し、実際の勤務日を、各月前に勤務予定表で提示する形をとることもできます。

(表2)日をまたぐ所定16時間勤務

  12345
  16:00  16:00 
6789101112
 16:00  16:00  
13141516171819
16:00  16:00  16:00
20212223242526
  16:00  16:00 
27282930   
 16:00     

月間所定労働時間 16:00 × 10日 = 160時間 

週平均 160時間÷(30日÷7日)=37時間20分

メリットデメリットはそれぞれにあります。使用者には予定通り働かせる場合は余分な時間外割増賃金を支払わずに済む反面、繁閑の予測がつく事業でないと思い通りには運用できない、という側面があります。労働者から見れば、決められた時間通りに働く分には時間外割増賃金をあてにできません。その代わり、長時間連続なら休日が増える、逆に休日が減る代わりに早く仕事があがる、あるいは労働時間の長短というメリハリの利いた就業、トレードオフながら労働時間減、休日数増のどちらかを享受できます。


一か月単位の変形労働時間制のよく似た制度で、1年単位の変形労働時間制があります。こちらは制約が多いため、1勤務16時間労働といった長時間ものには利用できませんが、前者のタイプ、変形期間の1年、3カ月周期で繁閑の見通しがつく業務に利用されます。


お勤め先が、変形労働時間制かどうかはどのように見極めたらいいのでしょうか。

まず、就業規則かその規則に基づいて立てた勤務予定表でもって、1か月とか1年といった一定期間、いつが労働日か、労働日なら何時間働くかが、あらかじめ特定されていることが大事です。その勤務予定表どおり働く分には、時間外労働は生じません。ただ深夜に対しては深夜割増賃金がつきます。


(2021年12月30日投稿、2022年3月19日編集)




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2021/06/15

1カ月単位と1年単位の変形労働時間制の異同

変形労働時間制のうち、1カ月単位と1年単位の違いを表にしてみました。利用形態として、(月)業務の特質(長夜勤等)や月周期での繁閑にあわせての利用が主、(年)盆暮れ休みを週6日制に振り替える利用が主となる。そのため、(月)は大企業の特定業務に限った利用、(年)は中小零細企業者がフルに労働日を確保したいといった傾向がみられます。

 1カ月単位1年単位
根拠条文労働基準法32条の2労働基準法32条の4
変形期間2日以上1カ月以内1カ月を超え1年以内
労使協定任意、協定締結したら届け出必須、締結が発効要件。締結した協定は要届け出
運用形態就業規則またはそれに代わる書面(就業規則制定義務のない事業所)左に同じ
所定労働日、労働時間の特定月の全期間原則全期間、最初のひと月だけ特定しておく例外運用あり※
日、週の労働時間の上限なし日10時間、週52時間
総労働日数の限度なし年280労働日以内
休日週休制または変形週休制の範囲内6連勤が最長(特定期間の例外あり)、いずれも週休制の範囲内
年少者保護  
期間途中規定なし途中加入離脱者への清算規定あり
法定総枠暦日数×40時間÷7日左に同じ

なお、年については3カ月以内の場合は上に述べた制約が解かれる場合がある(詳しくは1年単位の変形労働時間制についてを参照)。時間外労働の把握に、変形期間枠での把握は、(月)はその月内に清算となるが、(年)は原則最終月においての清算となり、その月の日、週で生じた時間外とをあわせて、36協定枠内に収まらせないといけない。だからといって1年単位の変形労働時間制で、月ごとに時間外労働を把握して清算するのは間違いです。

(※)1か月単位の変形労働時間制であれば、勤務予定表はどんなにおそくとも初日の前日までに確定し、各労働者に通知すればよいです(期間到来前に確定通知してあればよく、何日前といった法令の定めはありません)。一方、1年単位であれば1か月以上の期間ごとに区分して、各期間ごとの労働日数、総労働時間を協定しておくことで、月ごとの勤務予定表をその月がめぐって来るまでに確定しておく例外運用がありますが、この1年単位の例外運用は労働者代表の承認をとりつけるだけでなく、その月初日の30日前に確定しておく必要があります。たとえば、1月1日開始の勤務カレンダーですと、30日前の12月1日には確定承認取り付ける必要があります。


(2021年6月15日投稿、2022年7月19日編集)

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2021/05/01

1年単位の変形労働時間制について

変形労働時間制のひとつ、1年単位は制約の多い労働時間制度の例外規定です。制約が多い割には、中小零細企業に使用例がおおく、もっぱら週6日制を多用する目的と思われます。すなわち盆暮れ休みさせた分を、通期の土曜出勤にあてるという構図です。締結した協定書写しは労基署に届出書に添付。また就業規則にも変形労働時間制をとる場合の始業終業時刻、休憩時間帯、休日の定めを規定しおく必要があります。それでは、協定事項等を見ていきましょう。

協定事項
  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間
  • 特定期間(定めなくても可、対象期間のほとんどとするのは不可)
  • 労働日とその各日の労働時間
  • 有効期間(労働協約による場合を除く)

1年単位、元は3カ月単位の変形労働時間制でした。平成5年の労基法改正で、3カ月から1年に伸長し、変形期間3カ月以内であれば一部制約フリーの部分が生じたわけです。その違いを見ていきましょう。

項目変形期間3カ月以内3カ月超える変形期間
対象労働者18歳未満は不可(日8時間週48時間以下であれば可)妊産婦の請求があれば週40時間、日8時間以下に限る
対象期間1か月を超え1年以内
労働日と労働時間の特定全期間の労働日と労働時間を決定しておく ただし、1カ月以上の期間に区分して・最初の期間における労働日、労働日ごとの労働時間・次の期間以降の各期間の労働日数、各期間の総労働時間を協定しておくことで、次期以降の各期間初日30日前に各期間の労働日、各労働日の労働時間を労働者代表の同意をえる例外運用が可能。
総労働日数の限度(制限なし)年280日(1年より短い対象期間は、按分比例した日数) 旧協定での1日または1週間の労働時間よりも、新協定の労働時間を長く定め、かつ日9時間または週48時間を超えることとした場合、280日または旧協定の総労働日数から1日減じた日数のいずれか少ない日数としなければならない。
日、週の労働時間の限度日10時間、週52時間が限度 隔日タクシー運転業務は1日16時間まで左のほか※
・週48時超える所定労働時間の設定は、連続3週以内
・対象期間の初日から3カ月区切った各期間において、週48時間を超える所定労働時間を設けた週の初日は3以内
(ここでいう週は、対象期間の初日の曜日を起算日とする7日間を指す)
指定降雪地域の建設業の屋外労働者(およびその現場に出入りする貨物自動車運転業務)は非適用
対象期間の連続労働日数最長6日まで。協定に特定期間*を設ければ1週間に1休日確保で可。
36協定時間外労働の協定上限月45時間、年360時間月42時間、年320時間

・特定期間*は計測可能とするため、週を単位に期間指定することが望ましいと思われます。

対象期間の途中で出入りする労働者には、日、週で時間外労働としなかった時間が、在籍期間からもとまる法定総枠超えしている場合は、割増賃金つけて清算する義務があります(労基法32条の4の2)。これは同一事業場の、ことなるカレンダーを使用している部署異動にも適用されます。

48時間超える週の制限について

対象期間の初日の曜日を週の起算曜日として区切り、

1)48時間超えの週が連続3週以内、

2)対象期間の初日から3カ月ごとに区切り、48時間超える週の初日が3以下

2がわかりづらいですが、要するに3カ月跨ぎの週は、その週の初日が属する3カ月期間にカウントするという意味です。下表は1月1日開始1年単位の変形労働時間制です。開始日の1/1と同曜日で週を区切り、48時間超えの週をピックアップし、3カ月ごとに48時間こえる週の初日が3回以下とする制限があります。下表によれば、1月~3月の3カ月の48時間超えの週が3週連続し、かつほかに48時間超えの週が同3カ月内にありませんので、適合。4月~6月の3カ月期間内に6/25の週が48時間超え週のカウントに入りますので、不適合となります。

40時間48h52h 
1/1~    
1/8~   1回目
1/15~   2回目 
1/22~   3回目
1/29~    
    
3/26~    
4/2~   1回目
    
5/14~   2回目 
5/21~   3回目
    
6/25~   4回目(不可)
7/2~    
     

(2021年5月1日投稿 2023年10月30日投稿)

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2021/04/29

変形労働における時間外労働の把握2

法定労働時間の例外である変形労働時間では、時間外労働を

その日の所定労働時間を超えて働いた時間、ただしその日の所定労働時間が8時間以下の日は法定労働時間の8時間を超えて働いた時間法定休日労働を除く(以下同じ)
その週の所定労働時間を超えて働いた時間、ただしその週の所定労働時間が40時間以下の週は法定労働時間の週40時間を超えて働いた時間日においてすでに時間外労働とした時間を除く
変形期間変形期間※における法定労働時間の総枠 ( = 暦日数※ × 40 ÷ 7))を超えて労働した時間日、週においてすでに時間外労働とした時間を除く

の3段階で把握します。

なお変形期間の総枠だけで時間外を判定することはできません。かならず、日、週、変形期間の3段階での判定に付します。週については就業規則に規定してなければ、暦に従い日曜に始まり土曜日で終わります。なお、法定休日とした日(0時から24時まで)の労働はこのカウントには入りません。

それでは具体的に数字をあげて見ていきましょう。(カッコ書きで週累計時間を記載していますが、週の時間外労働算出する計算過程をわかっていただけるように列記しました。)

 所定労働時間
実労働時間
時間外労働の部分
週(週累計)
 1水8:008:000:00(8:00)
 2木8:008:000:00(16:00)
 3金8:008:150:15(24:00)
 4土休日8:000:008:00
 5日休日休日0:00(0:00)
 6月9:009:000:00(9:00)
 7火9:009:000:00(18:00)
 8水9:009:000:00(27:00)
 9木9:009:000:00(36:00)
10金9:009:150:15(45:00)
11土休日3:110:003:11
12日休日休日0:00(0:00)
13月7:007:000:00(7:00)
14火7:007:000:00(14:00)
15水7:007:000:00(21:00)
16木7:007:150:00(28:15)
17金7:008:250:25(36:15)
18土休日4:350:000:50(40:00)
19日休日休日0:00(0:00)
20月8:008:000:00(8:00)
21火8:008:000:00(16:00)
22水8:008:000:00(24:00)
23木8:008:000:00(32:00)
24金8:008:150:15(40:00)
25土休日2:350:002:35
26日休日休日0:00(0:00)
27月6:006:000:00(6:00)
28火6:006:000:00(12:00)
29水6:006:000:00(18:00)
30木6:006:000:00(24:00)
31金6:008:450:45(32:00)
この月時間外合計1:5514:36

次に週ごとの数値を再掲してみましょう。

 週の所定労働時間(a)週の法定総枠(b)実労働時間(c:日で時間外とした部分を除く)週における時間外(cーmax(a,b))
第1週24:0022:5132:008:00
第2週
45:0040:0048:113:11
第3週35:0040:0040:500:50
第4週40:0040:0042:352:35
第5週30:0034:1732:000:00
   14:36

週別に解説しましょう。7日未満の端数週となる第1週、第5週はこのあとで説明します。

第2週:所定>法定、所定45時間を超えた3時間11分がこの週の時間外労働。
第3週:所定<法定法定40時間を超えた50分が時間外労働。
第4週:所定=法定、法定40時間を超えた2時間35分が時間外労働。

次に端数週は、法定労働時間40時間をその端数週の暦日数でもとめた時間数に置き換えします。通常の労働時間制ですと、日、週の2段階ですが、変形労働時間制は変形期間ごとに清算しますので、同期間をまたぐ週はそれぞれに切り分けての計算となります。

第1週:4日×40時間÷7=22.857(22時間51分)
第5週:6日×40時間÷7=34.285(34時間17分)
第1週:所定(24:00)>法定(22:51)、所定24時間を超えた8時間が時間外労働。
第5週:所定(30:00)<法定(34:17)法定34時間17分を超えた部分はない。
この変形期間の法定総枠 177:08(31日×40÷7=177.142)
総実労働時間:197:31

この総実労働時間から、日、週で時間外とした時間を控除し、法定総枠との比較で、変形期間での時間外労働を求めます。

197:31ー16:31(=日1:55+週14:36)=181:00
181:00ー177:08=3:52(変形期間総枠超え部分)

結果、この変形期間の総時間外労働:

20:23(=日1:55+週14:36+変形期間3:52)

【ご参考】

暦日数×40時間÷7日
暦日数計算値時間:分
(分未満切り捨て)
28日160.000160時間00分
29日165.7143…165時間42分
30日171.4286…171時間25分
31日177.1429…177時間08分

暦日数計算値時間:分
(分未満切り捨て)
1日
5.714…5時間42分
2日11.428…11時間25分
3日17.142…17時間08分
4日22.857…22時間51分
5日28.571…28時間34分
6日34.285…34時間17分
7日40.00040時間00分

最後に、フレックスタイム制で認められている総労働時間のうち法定総枠(31日の月なら177時間8分)超えたところから時間外労働とするのを、1カ月単位、1年単位の変形労働時間制にあてはめるのは間違いです。上の例では、たまたま一致したにすぎません(197:31-177:08=20:23)。たとえば月間所定労働時間160時間の月に毎日こつこつ45分残業し時間175時間に達したとします。フレックス制ではなるほど時間外労働0分ですが、変形労働時間制では、日8時間超えの45分20日残業したので、15時間分の時間外労働が発生しています。

(2021年4月29日投稿 2022年8月14日編集)
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