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2021/10/02

年次有給休暇制度の詳細*

年次有給休暇をどう付与運用するかは、就業規則の絶対記載事項のひとつとして規定しておかねばなりません。単純に付与する日数を決めるだけでなく、種々のケースに対応できるように、これまでの法改正を踏まえ、また将来の改正にも柔軟におうじられるよう、制度設計しておく必要があるでしょう。

そのための理解の一助として、労働基準法制定当初から、制定法をめぐる労基署と本省との質疑応答に目をとおしておくことも有益です。お読みになるときは、下記投稿編集日付当時の内容であることにもあわせて注意されてください。内容の正確性については通達本文が優先することとし、このサイトの文章は理解の足掛かりにされてください。

年次有給休暇の通称略称を{有給」「有休」と表現される場合が多いですが、ここでは「年休」と略して記載しています。通達は法令ではありませんのでのちの裁判により否定されることもあります。確定裁判により、通達が補強または変更されて発出することがあります。基発:労働基準局長名の通達、基収:同職の疑義に答えてする通達です。一部学説等からアレンジして補足しています。

概要

休日は労働義務のない日ですので、休日に年休を取得することはできません。使用者責めの休業日に年休を与えなくても違法ではありません。逆にその日に労働者の請求で年休を認めてもさしつかえありません。年休の昨年付与の繰り越し分と当年付与分とがある場合、取得によりどちらを先に減数するかは、当事者の取り決め(就業規則など)によります。

「時期」でなく季節を意味する「時季」という用語からして、まとまって休暇取得を予定した法制度です

入社時付与

法定の入社半年経過する前に年休付与することも可能です

一斉付与の扱い

  • 法定付与:各人の入社日を基準に勤続6カ月経過後に初回付与、以後1年ごとに出勤率8割以上の労働者に法定数を付与
  • 一斉付与:法定付与にかえて全労働者に一律の基準日を設け年休付与する制度。初回は6カ月経過前基準日と6カ月経過の遅い方にあわせる、あるいは年2回基準日といったパターンもあり。
  • 分割付与:初年度の一括して与えるのでなく、法定日数の一部を基準日以前に付与し、残りを基準日までに付与する制度

一斉付与、分割付与にあたって8割出勤算定の期間が1年(入社時は6カ月)より短縮された場合、短縮された期間は全出勤したものとして計算します。次年度以降の付与日は、初年度の繰り上げた期間分繰り上げ、またはさらに繰り上げて付与します。すなわち次回付与は1年内に付与しなければなりません。逆に言えば、合間が1年超えてからの付与は違法となります。分割付与の起算日は最初の付与日となり、その1年内に次回付与とします

法定を超える年休付与

法定の付与数を超えて付与する会社独自の付与日数の年休は、法とは異なる労使間で定める取り扱いとできます。それが、法より劣っても差し支えありませんブログ者注:法定の年休より劣った取扱(例:1年で消滅)にすると、年5日時季指定義務の控除対象とならないと考えられ、そちらから優先して労働者の取得が進むと時季指定義務の障害となりえます。法定と同一または法定消化後付与としておくことがおすすめです。ただし就業規則変更するにも合理的理由が必要です。また法定を超える日数に対しては、買取も可能となります。

付与における勤続年数

継続して雇用関係にあるかどうかは実態に即して判断します。次の場合は継続しているものとして扱い、年休付与の勤続年数は通算します。

  • 定年退職後、引き続き嘱託等で再雇用(相当期間空いている場合を除く)
  • 法21条に該当する労働者を引き続き雇用している場合
  • 臨時工が有期契約更新し引き続き6カ月経過した場合
  • 在籍出向者
  • 休職中の者が復職した場合
  • 非正規労働者を正社員に登用した場合
  • 解散した会社を包括的に新会社に承継した場合
  • 全員解雇し、一部再採用して事業を継続している場合

8割出勤率関係

遅刻早退しても、労働日の一部に出てきたことにより、出勤した日として扱います。賞与規定や退職金規定によく見られる「遅刻早退3回につき1欠勤に換算する」ということはできません。

8割出勤率を求める際の全労働日とは、計算期間中の暦日数から、就業規則等できめられた所定休日数をのぞいた日数とします。労働者ごとに異なることがあります。所定の休日に労働させた日は、全労働日に含まれません

労働者の責に帰すべき事由によらない不就労日は、出勤率の算定に当たって出勤日数(分子)に算入すべきものとして全労働日(分母)にも含まれ、すなわち全出勤したものとします。たとえば解雇無効の判決確定、労働員会の救済命令による使用者の解雇取り消しによる、解雇日から復職日までの不就労働日数

当事者間の衡平の観点から出勤日数(分子)、全労働日数(分母)に含まれないもの

  • 不可抗力による休業日
  • 使用者起因する経営管理上の休業日
  • ストライキ等争議行為による不就労日

勤続6か月目からの1年間、出勤率8割未満で付与日数0としたとします。次の勤続1年半からの1年間、出勤率8割以上での付与は11日でなく12日です

出勤率計算にあたって、年休でお休みした日は出勤したものとして扱います

法定の産前産後休業期間中は出勤扱いですが、出産予定日に遅れて出産し6週を超える産前休業も、出勤扱です

生理日休暇日を欠勤と扱うか出勤と扱うかは雇用契約、就業規則、労働協約によります

法37条代替休暇と年休は別物です。1日代替休暇した日は、年休8割出勤率算定にさいし、全労働日数に加えません

出勤率8割に満たない労働者への付与数0日は新規付与についてであって、繰り越してきた分には影響しません

スト等でいったん解雇され、のちに取り消しを受け復職した労働者には、いわゆる解雇期間中は事業主責めの休業全出勤したものとして扱います。その出勤率算定の1年間所定労働日が0となる者は、年休付与はありません

短時間労働者への比例付与

年度の途中で契約勤務日数の変更が行われた労働者には、次回付与基準日に所定契約日数と勤続年数に応じた新たな付与をすればよく、保持している日数に調整は入りません

計画年休関係

労使協定による計画年休日において労働者は時季指定権を、使用者は時季変更権を共に行使できません

計画年休協定で盛り込む事項として、

  • 一斉休業の場合は、具体的な日付
  • 班別の交替付与の場合は、班ごとの日付
  • 個人ごとの付与の場合は、期間、手順

入社日に5日、6カ月後の基準日に残り5日分割付与する労働者に、入社6カ月内に計画付与する年休はありません

一斉休業の計画年休に、年休の日数を保持しない労働者を休ませた場合、使用者責めの休業手当の支払となります

計画日前に退職する労働者には、計画日分の年休を取得できます

計画年休にあてがう年休は、個人が保持する5日を超える部分です。足りないもしくは年休がない労働者には、付与日数を増やす等の措置が必要ですブログ者注:この他に、特別の有給休暇、休業手当の支払い、出勤させて労務提供させるといった施策もあるでしょう。

5日を超える部分は、新規付与分のみならず繰越分を含みます

時間単位年休

実施する事業所において労使協定締結により導入できます。日単位で取得するか、時間単位で取得するかは、労働者の意思によります。労使協定締結により実施する場合でも、就業規則「休暇」として時間単位年休に関する記載が必要です。時間が単位ですので、時間未満の分刻みの制度とすることはできません。

労使協定の記載事項として

  • 対象労働者の範囲
  • 時間単位年休を与える日数(最大5日)
  • 1日分の時間数(所定労働時間。うち時間未満切り上げ。日ごとに一定しない場合は、年間平均所定労働時間をもってする)
  • 1時間以外を単位とする場合の時間数

利用目的に限定を設けることはできません。時間単位も時季変更権の対象です。日で請求して時間でとらせること(逆も同様)は時季変更権の行使でありません。時間単位をとれない時間帯を定めること、1日にとれる時間数の上限をさだめることはできません(ブログ者注:下限は労使協定でさだめることができます。ただしその単位時間数倍の取得となります。)。時間年休は計画年休の対象になりません。休暇時間の賃金は、その日の所定労働時間で除した額です。従前からの半日年休に変更はありません

5日をこえて時間年休取得させる場合またはした場合、会社独自の有給付与とし、法定付与数から減じることはできません。会社独自付与をもって分単位とする運用はできるでしょう。

年5日の時季指定義務

法定の10日以上付与した日から1年が対象です。その1年内に労働者が5日先行して取得した場合、計画年休で5日以上取得した場合は、使用者の義務は免れます。前倒しで10日以上付与する場合は、その日からの1年となります。その1年が経過するまでに新たに10日以上付与して重複期間が生じる場合、最初の付与日とあとから付与した1年が終わる期間の長さに比例按分した日数でもってすることができます。入社時分割して付与する場合は、10日に達した日からの1年とし、達する前に労働者が取得した日数もカウントできます。半日年休については、労働者が取得希望する分については対象とします。使用者が時季指定するにさきだって、労働者の意見を聞き、意見にそった指定をすることが望まれます

時季指定は、1年の期首に限らず、当該機関の途中でも可能です。対象となる労働者は、繰越をふくめた保持日数でなく新規付与が法定の10日以上の労働者です。時間単位で指定することは認められません。労働者が自ら取得した半日単位で取得した日数は0.5日としてカウントします。半日単位での指定は、労働者に意見を聞き労働者が希望した場合に限ります。時間単位の取得は、5日義務にカウントされません。育休から復帰した労働者にも期末までに時季指定の対象となります(復帰して期末までに5労働日に満たない場合を除く)。先行して5日取得した労働者に、時季指定することはできません。逆に時季指定が先行して、その指定日より前に労働者が取得5日に達しても、先行した時季指定は、労使の特段の定めがないかぎり有効です。特別の有給休暇は、時季指定義務の対象とならなりません。だからといってその特別休暇を廃するには、合理的理由が必要です。時季指定義務の対象労働者の範囲、指定方法についても、就業規則の記載事項です

短時間労働者への比例付与で、法定の10日未満のところ上乗せして10日以上付与しても、年5日指定義務の対象となはならない

高度プロフェッショナル労働者も時季指定義務の対象です

入社日が不明な者

本人に問合せる、同僚の証言を取り付けるなど、入社日を確認をしてください

2日にわたる勤務者

  • 1昼夜交替勤務は、1勤務を2労働日として扱います。
  • 交替勤務の日を跨ぐ場合、常夜勤者は、当該勤務を含む始業から継続24時間を1日として扱えます。
  • 交替勤務で番方変換日に連勤、超過勤務する場合、労働時間の長さにかかわらず1労働日として扱う

半日年休

年休は1労働日を単位とするから、使用者は半日単位で付与する義務はありません

長期療養と休職

私傷病で長期療養にさいし年休取得はできます。一方で、労働義務がないとする休職期間中に年休を請求することはできません

振り替え

労働者が欠勤したあとから労働者の求めにより年休に振り替えることは違法でなく、就業規則にその定めを記載する必要がある

育児休業との優劣

育児休業を後出しで申し出てきた労働者が、先行した年次有給休暇を取り消さない限り、先行の年休が優先され、賃金支払い日となりますブログ者注:休業申し出と計画年休の労使協定締結も同様に、申し出と締結の後先によるでしょう。協定が先なら労働者の取り消しはできず、協定の計画日が優先、ただし協定に計画期間だけがあり具体的に休む日を個別労使協議となるならその協議と育休申し出の後先によることになるでしょう。

ストライキと年休

正常な労使関係にあっての休暇取得ですので、次のいずれでも差し支えありません。

  • ストライキ目的での休暇請求に対し、使用者は拒否すること
  • 年休指定した日に実施されたストに参加した場合、取得を認めないこと
  • スト参加後、その日を年休に振替請求したことを認めないこと、あるいは認めること

解雇(退職)との関係

労働者は解雇予告を受けたら、在職中に行使しないと年休の権利は消滅します

使用者は解雇予告日(最終在職日)を超えて時季変更権を行使できません

ブログ者注:通常の退職における退職日との関係においても同様でしょう。退職者に退職日まで全休されるのをふせぐ最善の対策は、業務を属人化させないで共働対策をとる、業務のマニュアル化および最新化、そして何よりも付与したその年のうちに全部使い切らせることです。事業継続リスクを軽減するイロハを常に志向するにつきるでしょう。

時季変更権の行使

事業の正常な運営を妨げるかは、個別、具体的、客観的に判断します。事由消滅後は速やかにあたえなければなりません。変更権は、労働者の意に反して行使すること、年度をまたいでの行使も可能です。

派遣社員と年休

派遣社員の年休行使対し、時季変更権を行使できるのは、派遣元です。派遣先の事情にでなく、派遣先に代替社員を送り込めない、といった派遣元の正常な運営をさまたげるかで判断することになります

休暇日賃金関係

休暇日の賃金は、就業規則にあらかじめ次の3つの中から選択して規定し、賃金を支払います。

  • 通常働いた時間分の賃金
  • 平均賃金
  • 健康保険の標準報酬日額

平均賃金の場合、日額満額支給であって、6割を乗じることはありません。標準報酬日額を選択するには、事業所ごとに労使協定締結を要します。

通常の時間分の賃金には、時間外割増賃金は含みません。月給者については、所定の労働時間働いたものとして減額しないで所定の賃金を支払えば、休暇日賃金をかさねて計算する必要はありません

変形労働時間制の時給者に支払う休暇日の通常の時間分の賃金とは、各日の所定時間分の賃金です

平均賃金算出にあたって、週払い、月払いのたとえば家族手当、通勤手当が含まれる場合、休暇日賃金から当該手当の1日分相当分を差し引いて支給してよく(差し引く計算は労基法規則19条による)、計算せず2重払いしてもかまいません

平均賃金算定する3カ月間に年休取得日と、休暇日賃金を含みます

通常の賃金と歩合給の関係

法規則25条6項を適用する歩合給総額を総労働時間で除し、1日平均所定労働時間を乗じた額を計算するにあたり、6項中「賃金がない場合」とは欠勤等で労働日が0日で歩合給0円のケースを指します

年休と買い上げ

買い上げを予約し、年休を与えない、もしくは日数を減じることは法違反です

退職にあたって未使用分を買い取ることまでは違法ではないですが、取得抑制をまねき好ましくありません。法定を超える付与日数の未消化分に対しての買取はさしつかえありません。

年休の時効

年休の未取得分は、2年の時効が認められます

繰り越さないと就業規則に定めても、時効にかからない分は消滅しません

入社日に5日、6カ月経過後に残りの5日を付与した場合の時効起算日は、それぞれ付与した日となります

近時の労基法改正で、時効が5年(当面3年)に伸長されましたが、年休権は2年のままです。伸長されたのはあくまで金銭債権ですので、年休行使し、お休みし、休暇日賃金が支払われなくて、はじめて時効3(5)年が適用されます(支払日が改正法施行後の部分から)。

年次有給休暇管理簿

  • 時季(取得日付)
  • (取得)日数
  • 基準日(付与日のこと、付与から1年内に第2基準日もあれば併記)

を労働者ごとに明らかにした帳簿を作成し、3年保存しなければなりません。賃金台帳、労働者名簿と合わせて作成することもできます

(2021年10月2日投稿 2023年9月1日編集)